第24話

 係員のお姉さんの、何故かやたらと優しい笑顔に見送られながら観覧車に乗り込んだ。


 いや、そんなことはどうでもいいんだよ。

 めっちゃ緊張する…。


 さっきまで暑さで出てた汗とは、ちがう種類の汗が出そう。

 観覧車のゴンドラ内は結構涼しいけどな。空調効いてんのかな?


 ここから地上に戻るまでは十数分だ、時間少なっ。


「んでさ、何故隣に座るの…?」

「別に…気分よ」


 気分屋さんだなぁ、ハハ。


「ちょっと疲れたな…」

「うん、そうね…」

「でも、楽しかったな」

「うん、楽しかったわ」


 ゆっくりゴンドラが上昇してる、座ってるシートからゴンドラの揺れが伝わってくるな。

 風と、機械の振動か。


 4人はゆったり乗れる広さだ、でも狭い。

 そこに、ふたりっきり。


 音が無いわけじゃない、でも静かだ。


 ここだけ、切り取られて別の世界になったみたいな、そんな錯覚。


「ここだけ、別の世界みたいに静かね」

「ああ、いま似たような事考えてた」

「ふふ、そうなのね」


 紗衣子が微笑んでる、多分俺も。


「ねえ、あんたさ…さっき、何であんな事聞いたの?」

「さあ、何でだろうな」


 さっきって言ったら、さっきの話だろう。

 まあ、気になるか。彼氏とか好きなヤツの話聞かれれば。


「おまえも聞いてきたよな」

「さあ、なんでかしらね」


 言いながら、また微笑んでる紗衣子。

 両手はひざの上に置かれている、俺を引っ張ってくれた手だ。

 俺の方から手を繋いだ事は…あったかな? 無かった気がする。


 だから、今度は俺の方から手を伸ばした。

 指先が触れてもそのままだったから、手を握った。

 彼女も握り返してきた。俺より少し小さくて、柔らかい。でも、しっかりしてる手だなと思う。


「この遊園地の観覧車ね」

「おう」

「ジンクスがあるのよ」

「どんな?」

「恋愛の」

「恋愛か」


 成る程なぁ…。


「遊園地を二人で時計まわりに回って、最後にこの観覧車で告白すると、必ず結ばれる。らしいわ」

「そりゃすげえな、丁度いま俺たちが周ってきたルートだ」

「そうね、偶然よね」


 偶然も有るもんだなぁ。

 そんなわけあるか。でも、それって…。


「あのさ、紗衣子」

「なによ、審」

「遊園地に二人きりで来て、ぐるっと一周遊んでだ。一緒に観覧車に乗ってくれるような奴らは、おおむねカップルだと思うんだが」

「…それもそうね」

「そんな状況で、告白して振られたら、お前どうなる?」

「そんなの、人間不信になるわよ」

「そうだよな、俺もだ」


 多分、最初は普通のデートコースだったのが、噂に尾ひれついた感じだな。


「うふ、ふふっ、あははっ!」

「ハハハ、あははは!」


 あー、おもしろいな。

 なんだ、もう難しく考えるのやめるか。

 どうせ俺には、恋愛の駆け引きなんか出来ないしな。


「なあ、紗衣子」

「なに、審」

「お前、俺の事好きだろ」

「どうかしら、そうかもね」

「そっか」


「ねえ、審」

「なんだ、紗衣子」

「あんたさ、あたしの好きでしょ」

「どうだろう、そうかもな」

「あっそう」


「所でさ。俺これから、お前に言わなきゃいけない事があるんだが」

「そうなの。実はあたしもなのよ。

 審のそれ、あたしの後で良いかしら」

「駄目だな、俺のが先だ」

「嫌よ、あたしが先ね」


「紗衣子」

「審」

「もうすぐ、ゴンドラが頂上だな」

「そうね、あたしに譲る気になったかしら」

「いや、こういうのはどうだ。

 頂上に着いたら、お互いでいっしょに言うのは」

「良いけど、それだとお互いの声が被るわよ」

「大丈夫だ。多分俺と紗衣子の言いたい事、同じだし」

「そうね、あたしもそう思うわ。ちなみに二文字よ」

「俺のも二文字で済むな」


「じゃ、いくか」

「いいわよ」

「せーの!」



「「好き!!!」」

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