第19話

 ――審、あきらったら!!


「んー…あと5ふんー…」


 ――起きなさい! ねえってば!!


「んー、だいじょうぶー多分今日休みだよ…むにゃむにゃ」




…………。




「おーーーきーーーろーーー!!!」

「がぁぁぁ! 耳が! 耳がァァァァ!!」


 なんだ!? 耳にすげー大音量を叩きこまれてキンキンするんだが!!


「耳が痛てえ!! 誰だわが眠りをさまたげる――」

「そういうのいいから!! ほらさっさと立って!! バス行っちゃうわよ!!」

「あ? バス??」


 おお!! バスか!! あっぶね寝過ごしてたのか俺は!!!


「ほら!! さっさと走る!!」

「ちょっとまてまて!! 行くから手を引っ張るな!!」


 登りの時、ペース上げ過ぎたせいで足がパンパンなんだよ!


 ◇


 いやー結構ギリギリでバスに乗り込めたー。


 座席が前の方しかあいてないので、また紗衣子と隣の席になったが。

 そんで、乗車してる引率の先生が、何故か教頭に変わってる。あんた登ってる時はいなかったよな?

 あれー、畑中先生は? ああ、学年主任の代わりやってるのか。


 俺達が本当に最後だったみたいだが、特に小言を言われるでも無く、バスはすぐ発進した。本当にギリギリだったんだな…。


 バス内を見渡せば、席順はがらっと変わってる。まあ、こういうのは遠足の席順あるあるだが…委員長とヒデが、めっちゃ離れた席に座らされてる。

 いやまあ、聞かなくても大体の事情は察せるけどな。


「なんか、二人で言い合いになって収拾つかなかったから、物理的に引き離したんだって」

「なんだってそんな事に…誰か止める奴は居なかったのか?」

「そんなの、審とあたし以外に誰が出来るのよ」

「ですよねー遅れてすいませんでした」


 やっぱ班員構成まちがえてたな、ハハハ。


「それで畑中先生も居ないから、みんな好き勝手に席に座り始めたらしいわ。

 その混乱で、あたしたち二人がバスに乗ってない事に、みんな気が付いてなかったみたい」

「マジか、本気で置いていかれるところだったか…」


 あぶねーな、点呼しなかったのか?

 え、教頭先生が間違えてた? 伊藤と伊東を?

 俺の名前も、”あきら”じゃなく”しん”って呼んだから、他の奴が返事したと。

 …なんか、畑中先生が教頭の事ディスる気持ちもわかるな。


「あとね…委員長が、その…勘違いって言うか、ちょっと変に気を回し過ぎたみたいで…」

「なんだよ、はっきり言ってくれ」

「こ、これはあの子が勝手に気をつかっただけで、あたしがその…頼んだ訳じゃないんだけど。

 『なるべく二人で居られるように、連絡するのをギリギリまで待ってたの、そうしたら間が悪い出来事が重なってしまって、御免なさい』って…」

「…気をつかわれてたのか」


 そりゃ、あんなプリントシール見られてたら…普通は男女の仲だと思うもんな。


「ギリギリに連絡しようとしたら、ヒデとケンカになったり教頭がアホだったりして、連絡し損ねたのかな」

「多分そうね」

「いやーしかし、紗衣子が起こしてくれなかったら、間違いなくおいてかれてたな。ありがとう紗衣子」

「うん、でもまあ、あたしも寝てたのよね…」

「あっぶねーな! お前よく起きれたな?」


 スマホに目覚ましでもセットしてたか?

 ん、なんだ紗衣子が手招きの仕草を…ああ、耳を貸せ的なやつか。

 こそこそ話さないといけない内容、超能力関係かな。

 あ、耳に紗衣子の吐息が…おふぉ。


「じっとしてなさいよ…あのね、夢の声に起こされたのよ。

 『このまま寝てたら死ぬ』って言って――」

「はぁぁぁ!? なんだそれ??」

「ちょ、ちょっと声が大きいっ」


 やっべ、みんなビックリしてこっち見てる。

 あ、ごめんねー驚かせて、なんでもないから。


 ジェスチャーで謝ると、クラスメイト達も不思議そうにしながらも、またそれぞれ会話や仮眠の続きに戻っていった。


「とりあえず…この話しの続きは帰ったらにするか」

「…そうね」

「…そういや、もう寝ても大丈夫なのか?」

「多分大丈夫よ。それにほら…昨日の夢の事は話したでしょ」

「ああ、そういえば…『山で寝るな』か…言ってたな」


 忘れてたな、いやでも命に係わるとか言われてねーからな?

 本当に、そういう重要な事は最初に話せよな。


 ◇


 無事に学校に着いたー。いやー今回は疲れたな…。

 時間が少し遅れていた事も有るが、みんなさっさと帰るな。


 俺と紗衣子もそのまま帰宅…するフリしながら、いつもの公園に。


「あのまま寝過ごすと、あたしと審は置いていかれて、そのままキャンプ場で一晩過ごす事になるらしいの。

 そこで、夜中に運悪く野生の熊に襲われて死んじゃうらしいわ」

「あっぶねー!」


 いや、普通ちょっと信じられないけど…紗衣子がこんな嘘つくわけ無いし。

 それに、キャンプ場で俺を起こした時の様子…あの焦り方は少しおかしいと思ってた。

 だから、この話を聞いて、スっと腑に落ちたんだよな。


「でもよ、何か今回は情報量が多くないか?」

「うん、それなんだけど…どうも、審から貰ったこの”懐中時計”が原因みたい」

「…へ? いやいや、なんでだよ??」


 それゲーセンの景品だぞ?

 秘められたちから! なんて無いと思うが。


「声の主がね、未来のあたし…だと思うんだけど、この懐中時計を通して、色々とメッセージを飛ばしてきてるみたい」

「トランシーバーかよ」


 なんか、キーアイテムになっちまったみたいだな。あの懐中時計。


「昨日はこの懐中時計、寝るとき机の引き出しに入れてたの。

キャンプ場では身につけてたから、たぶん距離が近い方が声が届きやすいんだと思うわ」

「まあ、何かのエスパー能力使ってんだろうな」

「何かって、なによ?」


なんだろうな、テレパシーと似てるが、別の能力だと思うが。


「知らん、レベル上がれば覚えるんだろ」

「ふーん。じゃあ、どうしてこの懐中時計なのよ」

「そりゃ、そういうアイテムに選ぶのは、お前が現在から未来まで持ってる物だからじゃね?」


紗衣子が持ってない物に、音声飛ばしても届かねーだろ。


「うーん。確かにこの懐中時計なら、ずーっと未来まで大事に、肌身離さず持ってると思うわ」

「…え? そ、そうか。

 いや、そこまで大事にされると、俺も嬉しいけど」

「なによ…あっ」


 こいつ、自分が何を言ってるか気がついて、顔を真っ赤にしてるのか。

 俺だって少し恥ずかしいわ、嬉しいけど。


「ありがとうな紗衣子、俺なんかのあげた時計を、ずーっと先の未来まで大事にしてくれて」

「…そ、そうよ! あたしは物を大切にする性格なの!」

「うんうん、そっかー」

「…。」


顔真っ赤にして、口をもにょもにょしながら恥ずかしがる紗衣子。めちゃくちゃ可愛いな…。


「…と、とにかくよ!

そのお陰で審もあたしも助かったの!

わかった!?」

「おおう、分かったって…ありがとうな」

「…正直に言うとね、審が死ぬかもって言われた時は焦ったの。

でも、無事帰ってこれて、本当に良かった…」

「…そうだな、ほんとマジで良かったよ」


多分だが、死んだのは俺だけだな。

紗衣子が超能力で連絡してきてるんだし。

本当、良かった。

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