第9話
俺のテスト勉強は難航してる。
「――いやだってさ、”s”って文字があるのに発音しないって、おかしくね?」
「だから! そう言うのは考えなくていいから単語を暗記すればいいの!!」
「ええ…、なんかスッキリしないーモヤっとするー」
「あああああもう! めんどくさいヤツね!!」
お前に言われたくないなー。
いや、紗衣子の言う通りなんだけどさ、気になると集中出来ないんだよな。
「あのね! そういうのは黙字とか言って、発音しなくていい文字なの!!
大体、学校のテストでそんなの気にしなくていいのよ!!
日本語でも似たようなのあるでしょ漢字とかで!!」
「え、あったっけ」
「『伊達』とか『五右衛門』とか!! 『伊』とか『右』よ!!」
「あーなるほど、流石だな紗衣子は」
「ああ…これ思ってたより大変かも…」
何を頭抱えてるんだか、ほらその調子でどんどん教えてくれよ。
「集中力が無くて違う事考えたり質問が脇道に行ったり自分のやりたい問題だけ解こうとしたりいいいいぃぃぃ!!!
だから!! あんたは!!! ダ・メ・な・の・よ!!!!!」
「あんま怒るなよ、ほら俺って褒められて伸びるタイプだし」
「だったらあたしに褒めさせる事やってみろ!! 誰の所為だと思ってんの!! 集中しろーー!!」
おお怖っ、言葉の圧力がすげー。
しかし、集中力かー…確かに俺って好きな事しか出来ないからな。
小中学校でもよく先生に言われてたなー、集中力が無いって。
「ねえ審、あんた本っ当にどうやってウチの高校に受かったの…?」
「受験の時は、母さんが時間ある時に勉強見てもらってたな」
「お母さまに聞くしか無いかしら…」
「簡単に我が家の母親に会わせると思うなよ。
まずは、俺と弟を倒してからだ」
「なんでそうなるのよ。
まあ、審だけならすぐに倒せそうね」
「どのみち今日は夕方まで仕事で居ないがな」
「じゃあ、どうしようもないわね。
試しに聞くけど、どうやったらやる気になるのよ」
どうって言われてもなー。
あれか、目の前にエサでもぶら下げるのが一番じゃね?
「ふ、太ももはダメ! えっちなのはダメだからね!!」
「…んなこと考えてねーよ」
言われたからいま考えたがな、俺の所為じゃない。
しかし、そうするとアレしか無いんだが。
「じゃあ、勉強出来たら”紗衣子水”くれ」
「はぁ!? え、冗談でしょ…?
いや、でも審が全部飲んじゃったから無いわよ?」
あー、そういやそうだった!
何で今日は”水の日”じゃ無いんだ…。
「なんて事だ…あれ? でもその言い方だと、次に”水の日”とか出たら貰えるの?」
「…す、少しなら…い、良いわよ、今更だし…」
「いやったぁ!」
やっほぉー!
いやー言ってみるもんだな!
「朝の一番搾りでよろしくな!」
「何よそのこだわり、あと言い方が牛乳みたいでなんか嫌…て言うか、いちいちそれだけ別にして学校持って行くの、面倒じゃないの」
「家の玄関前に牛乳ボックス設置しとくから、朝6時にソコに入れておいてくれ」
「あんたもう大人しく牛乳飲んどきなさいよ!!」
まったく、わがままばかり言って、しょうがない紗衣子だな。
「わかったよ、んじゃ登校前に毎朝俺が取りに行くから」
「え、そこまでして飲みたいの?!
毎回水の日になるわけじゃないのよ?
大体それ学校行く前に迎えに来るってことだけど…」
「どうせお前んち寄っても、登校時間大して変わらんからなー」
それに心配な事もあるし。
テレパシーみたいなのが又出たら困る。
あんな事があった以上、俺が朝イチで確認するのが一番だしな。
俺だって色々真面目に考えてはいるんだよ、こっそりだがな。
「えっと、うん…審がそれで良いなら助かるけど…悪いわね。
でも、お水は毎朝出るとは限らないから!」
「なんだよ毎朝しぼらせろよ」
「言い方がいらやしいのよ! このスケベ!!」
せめて三日に一回は欲しいのに。
「あ、あのね! もうその気になってるみたいだけど、今日審がちゃんとやる気になってる所見せないと、お水あげる話は無しだからね!!」
「おっし任せろ来いよ!」
「…本当に大丈夫かしら」
だーじょうぶ、大丈夫、信じろって。
◇
「…うん、大分良くなったわね。
普通に話聞いて勉強してくれるようになったお陰で、大分楽になったわ」
「そりゃどうも」
「あとは単語帳でも作って、普段から持ち歩いて勉強した方が良いわね…審の場合、空いた時間にちょっと勉強なんていっても忘れそうだけど」
「まあな」
ごもっとも、良く分かってらっしゃる。
「でもやりなさい。
違うわね、必ずやれ」
「は、はいぃ!」
「もしやってなかったら…分かってるわね?」
「もちろん心得ております!!」
こわっドス効かせんな。
「とりあえず、これからテストまで放課後は審の家で、あたしが勉強教えるから」
「え、いやいやそこまでしなくていいから、ほらお前も他の友達との付き合いとか――」
「テスト直前に遊ぼうとする友人なんて、あたしには居ないわよ」
そうですねすいませんでした。
「どうせ最近は放課後あの公園で毎日会ってたじゃない、それが審の家になるだけよ」
「いやでも、ほら遅くなると悪しい、年頃の女子が毎日男の家にってのも、それにお前の成績さがったらマズいし、ね?」
「言い換えるわ、アンタがサボってゲームしない様にあたしも此処で勉強しながら見張るから」
「ああー!! ぐうの音もでないー!!」
見透かされてるな! なぜそこまで俺の行動パターンを…。
お前昨日俺とテレパシー繋がった時、本当はこっそり深い部分まで覗いたんじゃね?
「お前エスパーか!?」
「そうよ」
そうでした!!
「…ていうかね、それだけゲーム機の方を気にしてれば、誰にだって注意されるわよ」
ま、そうですよね。
集中力無くなってきたなー。
いや、腹へってきたな。
「なあなあ、そろそろ昼飯だしウチで食っていくだろ?」
「ああ、そういえばそんな時間なのね…丁度いいからお昼休憩にしましょうか。
実は今日、審にあたしの料理の腕前を自慢してやろうと思って、家から材料をもってきたのよ!さあ喜びなさい!」
だから変に荷物が多いのか。
「いやもう豚肉解凍してあるから、昼飯は豚肉のしょうが焼きな」
「なんでよーーー!!」
なんでって豚肉が無駄になるだろ。
消費期限が今日までなんだよ。
「いや、お前な…そういうイベントは事前に告知しておけよ」
「ううー…ちょっと、ビックリさせようと思って…」
なぜ相手の事情も考えずにサプライズしようとする、リア充とかパリピの風習なのか?
あーもう、肩を落とすな。
俺が悪いみたいだろ。
「ちなみに、何作る気だったんだ?」
「…カレーライス」
またド定番だな。
まあ辛いの苦手なら肉じゃがに変更も出来るからか。
まあ、今日は紗衣子の顔を立てるか。
「…紗衣子、今日って夕飯まで此処に居るか?」
「…審?!」
あからさまに喜ぶな、めっちゃかわいいな…っと。
まあカレーなら昼過ぎに作って、夕方まで置いておけばいいし。
紗衣子が何人分材料もってきたか知らんが、冷蔵庫にある食材とか足せば間に合うだろ。
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