第8話

 やあ、みんなおはよう!

 翌日、今日は土曜日で学校も休み、いやーすばらしいな!!

 ただね、実は今ちょっと困ってるんだ!!


 それは、紗衣子さんが午前中から俺の家の前に来て、仁王立ちしてることっ!!

 いやー、ヤバイ。


 彼女の手には、昨日俺が紗衣子宅の下駄箱に忘れたバッグ。

 電話でも確認したが、お身体はすっかり回復されたご様子で…ええ、何よりです。


 おっと、カメラに向かってメンチ切り始めたぞ。

 わー、インターホン越しでも眼が、こわーい。

 あ、すいません今開けます。


「お・そ・い!!! さっさと開けなさいよ!!!」

「おおお待たせして、もも、も申し訳ありませんっ!」


 睨むなって。

 とりあえず、何故こうなったか説明しよう。



 ○ 昨日は紗衣子水を堪能したあと、満足した俺は帰宅しようとした。

 ○ 玄関のドア開けて紗衣子んち出てから、バッグ忘れたのに気がついた。

 ○ 取りに行くにも、オートロックで閉まってる上に紗衣子は寝てる。

 ○ 翌日、元気になった紗衣子から電話、この時点で紗衣子の水飲んだのバレてる。

 ○ バッグ持って紗衣子が突撃してきた。 ≪NEW≫



 いや、バッグ忘れてなかったら、月曜まで色々誤魔化してスルー出来たんだがなー。

 でも、水が美味かったんだよ? 仕方がないでしょ?


 まあ、来ちゃったからには腹くくるしかないよね、ってバッグを投げて寄こすな危ない。


「ねえ!! 冷蔵庫と枕元にあった水!! 2本とも中身が水道水になってたんだけど!?

 あと起きたら、前髪がタオルで押さえつけられて、もう全部ぴょーんって上がって、おデコ丸出しヘアーになってたわ!!」


 ですよねー。


「あ、や、それは、ね?

 なんていうか、そのホントごめんなさい」

「まあ、おデコはいいわ…朝シャワー浴びたら元に戻ったし。

 それより! あたしのお水よ!! 飲・ん・だ・の・ね!?」

「は、はいいっ!」


 その、言葉の間に細かく中点入れる喋り方、やめて?

 怖いから。


「て言うか、審はさ…あれ2本とも全部飲んだの?」

「…あまりの美味さに、自制がきかずに…申し訳ありませぬ」

「え、本当に!? 呆れたわね…」

「あのー…紗衣子さん、怒っていらっしゃいますか?」

「そりゃそうでしょ、と言いたいけど…もういいわよ。こっちだって昨日はお世話になっちゃったし。

 あ、あたしの、水…全部飲みほしたってのは、ちょっとびっくりしたけど」


 頬赤らめながら「あ た し の み ず」とか言うの意味深です、ごちそうさまでした。


「それに、ほら…審、には昨日。色々…やってもらったし、今更よね…」

「あー、参考までに…どの辺までおぼえてんの?」

「最初から全部覚えてるわよ…審が慌てて家に来て、寝る時に…その、手握ってくれてた事まで…覚えてるわよ」


 …手握るとかやってたっけ、俺。

 あ、やってた。

 ちょっとやってたわ。


「ちょっと、何思い出したように照れてるのよ」

「や、なんか、その場のノリっていうか、空気っていうか、ごめん」


 恥ずかしい、何してんだ俺。


「…別に嫌だなんて言ってないわよ。

 あたしも、ほら…少し心細かったから」

「そ、そうか…なら良かった、ははは…」


 ラブコメすんな、なんだこの空気と間は。


「それで、あのね? 昨日の件は…ちゃんとお返しさせてもらおうと思って来たのよ」

「あの、飲んじゃった水と相殺でも――」

「もうっ! 恥ずかしいからそれはもう言わないでっ!!」


 食い気味に言われた、やっぱ怒ってない?


「わかったわかった。

 ただ、昨日みたいになったら、早めに俺に頼ってくれていいからな。

 ま、俺も人間出来てるとはいえ男だから、着替えさせるとかはもう勘弁だけどな」

「あの状況であたしになーんにもしなかった、ヘタレ審なら大丈夫でしょ?」

「はっ? ヘタレじゃねーから! 人間出来てるダケだから!!」

「はいはい、もう…ありがとね」

「お、おう…」


 そうやってぽそっと言うし。

 急にマジになるなよ。

 照れるから


「とりあえず、あたしの水については置いておきましょ。

 審からは、あたしにやってほしい事とかないの?」

「え、じゃあ紗衣子水ください」

「せっかく置いたのにまた持ってこないで!!」


 え、なんで?

 何でもするっていったじゃないですかー!

 いや、そこまでは言ってないか。


「まあ俺は諦めないがな。

 じゃあ後は…そうだ、勉強教えてくれよ」

「きっぱり諦めなさいよ…勉強ならいいけど。でも、審の成績ってどの程度なの?」

「学年じゃ下から5番目」

「…は!? あんた本当にバカなの!?」

「え、うん」


 バカでーっす、あっはっは。


「紗衣子って頭いいんだろ? ちょちょっと教えてくれると助かるなーって」

「そりゃあたしは、あんたのゴミみたいな成績より遥かに上だけど」

「はっきり言うのな、いやー耳が激痛」

「あんた…もうすぐテストなのよ!? 大丈夫なの??」

「駄目だから頼んでるんだろーが」


 あのな、別によくある恋愛フラグ建てるイベント起こしたい訳じゃねーんだ。

 こっちはもう、ガチで頭悪いからお願いしてんだよ、又母さんに怒られる。


 まあ、数少ない友達にも頭良いやついるんだが、あいつは時間なさそうだしな。


「え、ちょっとまって、もう再来週にはテストよ?

 審、アンタ今まで勉強してたの?」

「無理だからあきらめてゲームしてた、いやー紗衣子が頭良くてラッキーだったわ」


 赤点じゃない教科、一科目だけだし。

 だから教えてくださいお願いします。


「こ、このお馬鹿!! こうしちゃいられないわ…今日は今から勉強会よ!!」

「え、今日は俺やりたいゲームがあるから明日からで――」

「駄目に決まってるでしょ!! 準備して待ってなさい!! いいわね!?」


 怒られた、いや叱られた。

 え、明日からにしない?

 うん、俺の意見など耳も貸さず「教材取ってくるわ!」と言って走り去っていったな。

 あ、ちなみに紗衣子のマンション、家から結構近かった。

 多分あの様子だと、わりとすぐ戻ってくるだろうなー。


 面倒な…いや、これは仕方ない。

 誰かにケツ叩かれないと勉強なんか先延ばしにして、また赤点取りそうだし。

 丁度いい機会だったな、うん。


「少し片付けて…あと昼飯の準備しとくか…」


 リビングと俺の部屋、どっちで勉強するかは…まあ、紗衣子が来てから考えればいっか。



 ◇



「審! 戻ったわよ!!」


 …また気合いの入った荷物量だな、全教科分じゃね?


 そういや今日は紗衣子私服か、いや俺もだが。

 まー、今時の女子高生って感じ?

 でもジーンズていうかズボンは新鮮だな、普段制服のスカートだし。

 手首には、静電気軽減グッズのブレスレットが付けられてる、今日は『静電気の日』か。


「電気かー、何か困った事は無いのか?」

「ドアノブとかに触るたびに、パチってするわね。

 でも審の言うとおり、静電気対策グッズで固めてからは大分楽よ…納得いかないけど」


 言いながら、ポケットからファンシーなキャラの描かれたキーホルダーを取り出した。

 先っちょで金属に触れればパチッとしないってヤツか。


 おっと、そういえば電気といえば精密機械は無事なのか?


「スマートフォンとか大丈夫なん? 電気製品だろ」

「男子みたいに、ポケットに入れっぱなしにしてないから大丈夫よ。

 それに、静電気くらいじゃ壊れないわよ」


 大体ハンドバッグとかに入れてるもんな、女の人は。

 あとは、静電気程度なら触る前に放電すりゃいいのか、それはそれで面倒だが。


「腕時計が壊れるから、外さないといけないのが面倒ね…」


 腕時計は駄目だったんだな、そっかそういう問題があるか。

 時計ねー…どうすりゃいいんだろうな?

別にスマホあるならいらない気がするがなー。

 まあ急には思い付かんし…何か考えとくか。


「んじゃ、リビングと俺の部屋どっちいく?」

「審の部屋でいいわよ」

「一応、男の部屋なんだから少しは躊躇しろよ」

「昨日、あれだけ人のプライベートエリアに入り込んでおいて今更よね」


 だから白い眼で見ないで。

 そう言われればそうだし…別に入られて困る訳でもないけどな。

 まあ教科書や参考書も全部自室にある、その方がラクか。


「ここが俺の部屋、こっちのドアはトイレな」

「ふーん、他の部屋は?」

「奥の部屋は弟の部屋だから入るなよ」

「弟いるんだ、へえー」


 いちゃ悪いか。


「いいから、もう早く入ってくれ」

「はいはい、お邪魔しまーす…って、何か普通の部屋ね」


 アトラクション的な要素は無いからな、当たり前だ。


「これが審の部屋…ふふーん、意外ねー普段から綺麗にしてる感じするわ」

「PCとかゲーム機器はホコリに弱いからな」

「そんな理由なのね」


 しかし、こいつも結構遠慮なく見るな。

 まあ別にいいが、お互い様だし。


「取りあえず、適当に座ってくれ」


 紗衣子め遠慮なく一番でかいクッションに座ったか、それ俺が普段ゲームする時使うやつなんですけどね?

 ん、腰からキラキラしたアクセサリーぶら下げてるな、邪魔じゃね?

 まさか、あれアースの代用品か?

 座った時放電出来るように? でも実際どのくらい効果あるんだろうな?

 まあ、そもそも超能力で作った電気な訳だし、そのへん上手くいくかは本人の思い込み次第かもしれない、水差すような事は言わないでおくか。

 何事も、気の持ちようだ。


「…あんた又ふともも見てるの?」

「え? いやいやいやちがくてその腰のチェーンぽいの気になったダケで!!」

「ホントしょうがない男ね…ふっ」


 なにを鼻で笑いやがってコイツ。

 いやいや、たしかに僅かだが気にしてたけどな?

 いや意識しない様に努力はしてんだよ、一応。

 でも、しゃあないだろ女子を家に上げるとか初めてだし。

 

 おっと、お客様に何か出すか。


「飲むヤツもってくるが…冷たいジュースか麦茶、どっちがいい?」

「そうね、じゃあ麦茶で…あとお菓子は無しね、食べて眠くなっちゃうと勉強出来ないでしょ?」


 やる気がみなぎってんな。


 冷麦茶とコップをお盆に乗せて戻ると、まだ紗衣子は俺の部屋をキョロ見してた、別に面白くは無いと思うが。


「全体的に地味ね…パソコンとゲームだけは立派だけど」

「紗衣子んちゲーム機は無かったもんな、後でやってみるか?」

「ダメよ、今日は勉強。

 それに、今触ったら電気で壊しちゃうかもしれないでしょ?」


 それもそうか。

 上手くいけば勉強せずに済むかと思ったんだがなー。


「それじゃ、苦手な科目から始めましょうか」

「大体赤点だ」

「…英語からね」


 大体っつーか、全教科だしな。


「とりあえず、この問題集解いてみて、審の学力を見たいから」

「え、でもパッと見て殆ど分からな…い、いえ! 必死でやりますハイ!!」


 だから睨むな、お願いやめて。

 おおお、なんか胃が痛い…。

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