第7話

 ――お、終わった…。


 厳しい戦いだったが、俺はやり遂げたよ。

 メンタルはゴリゴリ削られた、忍耐力とか色々と。


 途中、思い切り二の腕を掴んでしまったが、その位の失敗なら誤差だ、うん。

 ふにっとしてて最初は胸に触ってしまったのかと思い、社会的な死を覚悟したがな。

 二の腕とおっぱいの感触が同じと言うのは、都市伝説じゃなかったのか。


(ねえ、おっぱいおっぱい言ってないで、喉乾いたから冷蔵庫から水持って来て欲しいんだけどー?)

「ハイよろこんでー!」


 こいつ、もう多少のセクハラじゃ動じないな…慣れるのはやくね?

 おっといけない、冷蔵庫は…おお、一人暮らしの割りにはでかいの使ってんだな。

 自炊してんだろうな、結構色々入ってる。


(そのドア側に入ってる透明な容器よ)

「お、わかった」


 こういう時はテレパシー便利だよな。


「起きれるか? 少し支えた方がいいか?」

(…うんお願い、背中支えてて)


 まあ、着替えまで手伝ったんだし…これくらいなー。

 …なんで背中までやわらかいの?

 さっき着替えさせた時も思ったが、女子って全身どこもふわふわな生き物なの?

 これじゃ男はバカにもなるよな…。

 あ、やべ聞かれたか?


(…聞こえてないわよ)

「聞こえてんじゃねーか」


 古典的なギャグかましやがって。

 いや、この位は大目に見てやるという事かな?


(…ちょっと眠くなって来たわね。

 ごめんね審、色々やらせちゃって…。

 結構時間遅くなっちゃってるよね…ここオートロックだし、そのまま帰ってもらって大丈夫だから…)

「…時間は大丈夫だって、家に連絡もしたしな。

 お前は余計な気を遣うな…また具合悪くなったら大変だろ。

 だから、紗衣子が寝るまでは…様子見た方が良いだろ、まだ何か有るかもしれないし。

 まあ、寝てる間に何かエロい事されたくないなら帰るがな、ハハハ」

(あんたは…そういう事しないでしょ。ありがと、審)

「…ああもう、いいから早く寝ろって」


 …色々見透かされてんな。

 だったら、心の中で敢えて言わせてもらうけどな。


 別に、こっちが勝手にやってるんだし。

 ま、気にするな。



 ◇



 …あれから30分ほど経過。


 うん、とりあえず具合は良さそうだ。

 規則正しい寝息をたててる。


 本当、心配させやがって。


 紗衣子の汗を拭ってたタオルを絞る。

 おでこにかかった前髪を手で上げる…こいつデコ上げるとこんな顔してたのか。

 おっと、いかんな。


 んで、前髪を上げたまま濡らしたタオルを畳んでデコに乗せてやる。

 目が覚めたら、前髪が全部上がってデコ丸出しになっている事だろうが、冷やさないといけないからな、仕方がないね。


 はあ、しっかし今日は疲れたな…。


「…なんか、喉乾いたな」


 まあ、この水でいいか…この位は文句言われんだろうし。


 …水ついでから気が付いたが、これ紗衣子使ってたコップか。

 飲み口のあとが付いてる…。


 まあアレだ、反対側から飲めばいい。

 だから、そういんじゃないから、別にこんなので意識なんてしてねーし。

 高校生にもなって関節キスで動揺とかしねーし。

 落ち着け俺は。

 飲めばいいんだ、渇きが収まれば落ちつくさー。


 …ん? ん?? はぁぁ!?


「ぷっは!? ななな、なんっだこの水メチャクチャうまいぞ!!」


 手が震えそうになるのを抑えながら、両手でグラスを抱える。

 こぼさないよう、意識しながら口をつけるが、それでも焦りから口の端に一筋零れる。


 ゴク、ゴク、と喉から頭蓋骨全体に飲み下す音が響いた。

 これは、こいつは――。


「――――ぷっは!! ま、まちがいねえっ、うまい!!

 ここ、こんなうめぇ水、生まれて初めてだ!!」


 美味いぞ! 只の水が…何故こんなに!?

 いや、味が有る訳じゃないんだが…なんというか、こう喉ごしとか清涼感が全然ちがう!!

 炎天下でマラソン直後に、スポドリ飲んだ時の様な…スッと身体に染み渡る感覚とでも言うか。

 新感覚だ、なんだこれ、いや、もしかして…。


「紗衣子、これ…お前の水、か…?」


 答えないがな、寝てるし。

 しかし、これが真っ当な水な訳がない。


 そうか、これ”紗衣子水”か…。

 あの、公園で”マ゛ー!”してたやつ。

 そいつを、俺はゴクゴクと…。

 あっこれ、もしかして…関節キスとかいう次元じゃなくね?

 現役女子高生というフィルターを通した水を、俺は…。


 んん? ”紗衣子水”の容器が、気がつけばカラだ。

 何時の間にか飲み干してたみたいだ…。

 ふっしぎー。


「なんだ、この名水」


 なんなん、マジで。

 つーか、自分が出した水を保管して飲むなよ。

 いや、実際に体内から出してる訳じゃないんだろうが。

 それはそれで残念…じゃなくてだな。

 今は、それよりも…。


「こっ、この水…もう無いか…?」


 冷蔵庫を開けたら…ハハ、なんだよぉもう一本あるじゃあないかぁ…。


「紗衣子ぉ…お前がぁよぉ…。一人暮らしの部屋によぉ…男上げて暢気のんきに寝てるのが…悪いんだぜぇ…ヘヘヘ…」


 俺は『現役JK由来の水』が入った容器をそっと、音を立てずに台所に置く。

 紗衣子を、起こさない様に。

 食器棚にあったグラスを、そっと流し台に置く。


 綺麗に磨かれたガラスのコップに、俺の欲望にギラつく瞳が映っていた…。

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