第5話

 前回までのあらすじ、百合の花が咲きそう。


 ちなみにあの後、紗衣子の方からは「最近ダイエットで水ばかり飲んでたから、それを知られるのが恥ずかしかった」と説明したらしい。

 ちと苦しい言い訳だが、委員長も「大丈夫、わかってるわ」と、絶対分かってない返事してたからまあ大丈夫だ、俺はもう関与しない。



 そして、俺と委員長の会話などなどを、現在いつもの公園で紗衣子に報告してる。


「あんた…自分が何をしたのか、分かってるの…?」

「もももも申し訳ありませんでした!!」


 めっちゃ怒っておられる。

 いやー、ホントごめんね?


「もう…でも、委員長って実はお茶目で天然だから、あんた多分からかわれたのよ」

「えぇぇ…本当ぉ…???」


 まあ、天然ではあるよな。

 そういや、あの後たまーに委員長がこっち見てた気がするが…何か眼をつけられた?


「あの子の冗談は、たまに分かりにくいのよね…あたしもちょっと自信が…」


 あれが冗談なら、分かりにくいとかいうレベルじゃねーな。


「まあ、元々あたしが騒ぎの原因だし、結果的に委員長と仲直りのきっかけにはなったから。一応お礼は言っておくわよ…ありがと」

「そっか…どういたしまして」


 ま、この結果で満足しとくか。


 ◇



 それから翌日の学校、珍しく昼休みに紗衣子に呼び出された。


「そんで、今日のエスパー能力が分からない?」

「そうなの、分からないのよ」


 それでこんな時間に呼び出されたのか。

 昨日の事もあるから大人しくしてた方がいい気がするんだが、しゃあないか。

 分からないとモヤモヤするし。


「うーん、例えば人や物との”接触”が発動条件、とか……」

「…そういうのは、試した事無いわね。

 今まで試せる相手が居なかったし。

 でも、聞いたら何故かそれが正解な気がしてきたわ」


 言いながら、俺の方をチラ見し始める紗衣子。


「伊東さんや、俺を実験台にしようとしてる?」

「うん、おねがいできる?」


 は? 上目遣いだとこのやろう可愛い。

 こいつ、俺慣れしてきやがったか。

 いや、公園で会った最初だけだな丁寧だったの。

 なんか…あっという間に扱いが雑になっていった気がする。


「何か変な能力が知らずに出ちゃって、クラスのみんなにバレたり迷惑かけたりとか嫌でしょ?」

「俺には良いのかよ」

「だからあんたには、これから覚悟を決める時間をあげるわ」


 そういう問題じゃねえよ。

 あー、まあいいか、大した事は起きない可能性の方が高そうだし。


「んじゃほら、とりあえず手出しとくからやってみ」

「わかったわ、せーの…えいっ!」


 何か気合いを注入するような身振りで、俺の右手を両手で握る紗衣子。

 なんだその、えいっ!てのも可愛いな、手やわらかいし。


「…は、かわいい? や、やわ?? はぇ?? い、いきなり何いってんのあんた?!」


 んー??

 まてまて、お前なに地の文読んでんのハハハ、ラノベじゃないんだからそういうメタなのは止め……え?


 え、待って。


 あ、まさか?


 まじかよヤバいぞ!!!


「読心か?! 一回手離せ!!!」

「え、ウソ!? ご、ごめん!!」


 おー、びっくりした、思わず声を荒げてしまった。

 なんだ、ここに来て何故突然それらしい超能力出てきてんだ。

 飛躍しすぎだろ、いつものクオリティで残念微妙な性能に抑えろよ。


「ざ、残念とか微妙とか余計なお世話よ!! あ、あたしだってビックリしてるだから…」

(ほ、本当に、いきなり…可愛いとか言い出すから…何かと思ったわよ…もう)


 …あれ。

 俺は、手を離したぞ??



 ◇



(つまりだ、双方向通信の『テレパシー』みたいなもんか。

 多分、最初の接触で周波数? を合わせたんだろうな。

 んで、それ以降はつながりっぱなしと…オフに出来ないで駄々漏れとか、又使いにくいな…)

(文句言わないでよね…もう一回他の誰かに触れば切り替えは出来るかもしれないけど、試せる相手が居ないし)

(…今のは独り言だ、俺の脳内に直接語りかけてくるな)

(審が油断した所為でしょ。気合い入れてればお互いの心の中までは伝わらないって、偉そうに言い出したのは審の方じゃないの)


 そう、心に壁を作るのだ。

 こいつには気を許さないと。

 よそはよそ、うちはうち。

 まあ、それはそれとして。


「――よし、この辺りは試験に出すからな。

 じゃあ次の問題は――」


 今、授業中なんだよね。


(ていうかさ、審ってあたしのこと心の中じゃ”紗衣子”呼びなのね、くふふっ)

(は? お前こそ頭ン中でドラえ〇んみたいな笑い方してんじゃねえよ)


 お前は普段そんな変な笑い方してたか? これはこれでちょっと可愛いが。


(今、あたしの事可愛いとか思った?)

(は!? んな事思ってねーし!!)

(えーホントかなーくふふっ)


 あぶね、少し漏れたか。

 話変えないと。


(い、伊東だと…伊藤って同じ読みのヤツ他にもいるから紛らわしいだろ!

 それにお前だって俺の事名前で呼び捨てじゃねえか!?)

(…だって普通、自分の頭の中でまで他人に気を使わないでしょ?)


 そりゃそうか、俺だってそうだし。

 あれ、そういう問題?

 まあ、俺はなんか…距離が縮まった感じして、悪くないけどさ。

 おっとマズい。


(おい、今のはそっちに聞こえてたか?)

(呼び捨てじゃねえかー、の後は何も伝わって来てないわよ。

 そっちはどうなの?)

(多分大丈夫、うまく通話出来てるな)


 授業中、普通に雑談出来る程度には慣れたな。


「はい、じゃあ次は…伊東」

「え、ああ、はい!」


 ほら見ろ、上の空でいるからだ。

 おーおー、慌ててる思考がこっちまで伝わってきてなんか落ち着かない…。


(ど、どの問題やればいいのよ!?)

(問3だ、問3)

(よく聞いてたわね、ついでに答えも教えてよ)

(分かるわけないだろ)

(使えないわね…)


 うっせ、いいからさっさと答え…いや問題解くの早えな、おい。

 

 もしかして、今日紗衣子が寝るまでずっとこんな感じなのか?

 あれ、コレ家帰ったらどうなんだろ…このまま?



 ◇



(なんだか色々あって疲れたわ、あたし、ちょっと気だるい…)

(まあそりゃそうだが…あれ、そういやテレパシー能力は今回初めてなんだよな?)


 思えば今までのエスパー能力は、どれも有っても無くても変わらない、微妙な能力ばっかだった。

 その点、今回の能力は「オン・オフ出来ない」が、中身はちゃんとしたヤツだ。

 そんなもんがタダで使えるの? 通話料払って無いし。

 常時ON? 超能力使いっぱなし…?

 ちょっとマズくないか? なんか嫌な予感が…。


「い、伊東さん顔色悪いわよ!?」


 委員長が指摘した通り、紗衣子の顔色が風邪引いた時みたいになってる!?


(お、おい! 紗衣子、今日はもう早退して休め!)

(ああ…うん、保健室いってから帰るわね…)


 授業はあと一教科だし、無理しない方が良いだろう。

 ん、あの友人Aは保健委員だったのか。

 委員長と保健の女子に両脇を抱えられた紗衣子は、保健室に行きそのまま帰宅した。


 校舎から出たあたりでテレパシー通話は途切れたから、多分家で寝てれば回復するだろう。

 その後は特に何事もなく、適当に帰宅の挨拶をして校舎を出た俺。

 そういえば、保健室に抱えられて行く時に、委員長と保健の女子に触ってたが…テレパシーは切り替わって無いみたいだったな、んー、また詳しい条件が分からないな?


 ん、スマホに着信? メールか。

 一応紗衣子とはアドレス交換してる、毎日放課後呼び出されてたからな。


 ”紗衣子 : ごめん、キツイ、たすけて”


 …は!?

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