鏡の中のあなたと私
椎名 れもん
プロローグ
私は毎朝、鏡を見る。きっとこうして生活している人々の殆どがその様にして過ごすんだと、私は思っている。
「私」は都内に住む専門学生で、この住んでいるアパートは学校の寮だ。専門学校の寮とは言っても、設備ばかり整って評判のよろしくない学校なので、このアパートもそこそこに綺麗だった。
数年限りの我が家の洗面台はごく普通の、三枚の鏡が連なっているタイプの鏡が付いている。端の二枚は開けると収納になっており、角度をつければ三面鏡として使う事が出来て、髪のセットにこだわる私としては有難いものだ。
髪のセットにこだわるとは言ったが、私は美容学生ではない。寧ろ、自分の髪や身なりは気にするが、他人の身なりなど余り気にならないたちだった。
今日も、外で喧騒が徐々に騒ぎ始める頃に目を覚まし、寝室から洗面所に直行した。顔を洗って、髭を剃り、髪を整える為だ。
私も男だ。他人に良く見られたいし、特に女性の前では格好を付けたいものである。洗面台の電気を付け、顔を洗って、鏡を見る。
「……………………………………は?」
映っているのは女性で、きっと今私がしているのと同じ様に呆けた顔をしていた。長く伸びた髪をヘアバンドで留め、手に持っているのは私が持っている髭剃りでは無く、眉や産毛を整える用の小さな剃刀だった。
私は即座に触って確認する。然し、その鏡の中の女性の様に長い髪の毛は無く、そもそもヘアバンドなどしているはずも無い。そして、手に持っているのはやはり髭剃りで、私の顔にはその女性とは違って肌触りを損なう髭が生えていた。
つまり、これはよく小説やアニメで見る様な性別が変わる様な物の類ではないらしかった。
こういった状況に陥った時に、人々は何と言うだろうか。私はこう口にした。恐らく、鏡の向こうの「彼女」も同じ様にした事であろう。
「お前は誰だ?」
鏡の中のあなたと私 椎名 れもん @Lemon_s
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