通学路の視線2

「おはようございます」

「あっ……おはよう、ございます」

「……おはようございます」


 翌日もその翌日も、見守りボランティアの男性は、麻紀たちに挨拶をしてきた。

 無視するわけにもいかないので、麻紀はぎこちなく、美知留はややぶっきらぼうに挨拶を返す。

 そして――。


「ど、どう? 美知留ちゃん。やっぱり、こっち見てる?」

「うん、ガン見してるね……。これはいよいよ、警察に相談でもした方がいい、かな?」


 男性はやはり、麻紀のことをじぃっと見ているようだった。

 麻紀は怖くてとても確かめられないので、代わりに美知留が折りたたみミラーを駆使して、男性の視線を確認していた。

 男性の側からは、美知留がミラーで身だしなみをチェックしているようにしか見えないことだろう。


「で、でも、まだ何かされたわけじゃないよ? 警察の人、お話聞いてくれるかな?」

「それもそう、か。『見守りボランティアの人に見られてます』なんて言っても、相手にしてもらえなさそうだね……」


 二人して頭を悩ませたけれど、気の利いた解決策は見つからない。

 美知留などは思い切って母親に相談したものの、どうやら男性は地域では信頼されている人らしく「気のせいでしょう」の一言で済まされてしまったらしい。


 そして更に何日かが過ぎた、ある日。

 雑木林沿いの道を歩きながら、二人はまだ頭を悩ませていた。あと少し歩けば、男性の定位置まで辿り着いてしまう。

 今日もあの視線を浴びるのかと、麻紀は憂鬱な気持ちを隠せなかった。

 すると――。


「う~ん、この手は使いたくなかったんだけど……。麻紀、ちょっとついてきて!」


 何を思ったのか、美知留は麻紀の手を引くと、雑木林の中へと勢いよく踏み入っていった。


「ええっ!? ちょっと美知留ちゃん!? わわわっ!」


 葉っぱや枝に盛大に引っかかれながらも、美知留は歩みを止めない。

 麻紀も腕や足を沢山すりむいたけれど、なんとか美知留についていく。

 ――そして。


「わっ、急に広くなった!?」

「そっ。この雑木林ってね、周りは木が生い茂ってるけど、中に入ると結構スカスカなんだ。小学生の頃、男の子たちとよく遊んだもんよ!」


 美知留の言う通り、雑木林の中は周囲の鬱蒼とした雰囲気とは違い、自由に歩ける程度には空間が広がっていた。

 薄暗い中に、土がむき出しになった道のようなものすら見える。


「実はね、あの道っぽい所を進んでいくと、中学のすぐ近くに出るのよ。今日からしばらくは、ここを通って学校に行きましょう?」


 少年のような笑顔を浮かべる美知留の姿を、麻紀は心底頼もしいと思った。



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