49.永遠と束の間の、あわいに
メメント・モリを象徴するような
それを右手くすり指に
「お待たせ」
『アタシの連絡先、送ってもいいかしら? また会えたら仲良くしてよ』
私たちは端末の連絡先を交換します。届いた孫娘くんのプロフィールの名は『ミロク』でした。性別を超越した
「開演前にパウダールームに行きたい。
「あら、おふたり
チェルシー先輩が、私たちの肌コンディションを褒めました。
「うん、卵の中で眠ってきたから」
卵の中。
月彦が、完璧な安楽を封じ込めた布団の中を、完全栄養食品の卵の中と表現したことに、私は感動していました。たしかに、あの布団は卵の殻のようです。
外界からの雑音も余分な刺激も吸収して閉じる完全なる卵殻。
その中で必須アミノ酸を蓄えて眠るキミは何処までも透明で美しい。
卵が好きです。
通常ならば一度、破ると縫合できない卵膜を、
「卵から生まれる少年少女。いいわね。日芽子ちゃん、何だか今日は赤ちゃんみたい。ボンネットが似合って
チェルシー先輩は親鳥の羽根みたいな腕を
懐かしい煙草の香りと『永遠』という名の香水の
新しい力が充ちて、少しずつ向こう側へ、卵の殻を破って未来へ、歩いて行けそうなのです。
隣には月彦が居ます。生まれたての羽を持った綺麗な少年の姿で、私を守ってくれるのでした。
ライヴ開始直前。
「最前列に行かなくて、いいの?」
「この身体で最前なんて自殺行為だ。僕、骨密度が七十代なんだってさ。入院中、
そう自嘲するのです。
健康な骨密度を持つであろうミロクは、最前列のスタンディング組です。
「アノレキシア自体、
月彦は聡明な少年にしか見えない、ニヒリスティックな笑みを唇に
老婦人の存在は空気のような悟りの境地。
月彦と私は、この
「それに日芽子さん、背後からの視線が怖いって言っていたじゃない」
骨密度は七十代なのに、脳年齢は十代。それが月彦の不思議。
私が話したエピソードを、彼は
「どうして日芽子さんは、背後からの視線なりエネルギーが怖いの?」
答えようとすると長くなります。何処から手を付けて話せばいいのか悩んでいたところ、暗幕の隙間から『永遠』という名の香水が
マダム・チェルシーの
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