40.死の床に巡り逢う
私たちは、同じ卵の殻の中で、生まれる前に
この世に生まれたくなかったのかもしれません。
永遠に卵の中で眠っていたいと
それは退化と言うよりは、純粋な場所に、
ひたすら
私は
月彦は私から生まれたかったですか。
死の床に眠る月彦に巡り逢いました。
私は輸液を吊るしたイルリガートルを引き
月彦は弱っていました。衰弱、
自宅に居るときに愛着のあった黒い
彼をこの世に
それは店舗で見た風鈴の秋の姿。季節を終えて沈黙しているのです。
「僕は医師として、月彦くんの
「彼の……月彦くんの
「僕を縛り付ける
いかにも月彦が
「それで先生は」
「安定剤を投与しました。結果、よく眠って……幸せそうに眠っておられるのです」
月彦は生命の季節を終えたわけではありません。ただ一時的に
図書館の棚影で、
病院の白い廊下で、
麗しのコスプレイヤーで
百合柄の
手を繋いでいた私たち。
月彦の手は、アノレキシアを象徴する温度です。やや冷ための体温で私の肌を
「生命の終わりの近い彼に、本当の心を伝えてあげてください」
園田医師に促され、眠る月彦に心を開きます。想いを伝えられずに終わっていくのではないかという危惧。伝えることができずに引き離されてしまうのではないかという焦燥が、私を大胆にしました。
私の叫びで、眠る月彦を目覚めさせたい。
「月彦くん、助けて。私を
寒くて仕方がないのです。
私たちは物理的に、
月彦を失うということは、皮膚感覚を
この巡りを正しい場所へ導けるのは月彦だけ。
私をあなたの中に
ライナスの毛布で包んでください。
月彦は黒い百合が咲くように寝台に上体を起き上がらせて、
私たちは生命をかけて求め合い、愛し合う百合なのです。
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