36.愛と憎しみの心理
ショッキングなニュースが飛び込んできました。
襲撃したのは、チェルシー先輩のファンでした。
デビュー当時からの熱烈なファンです。
「僕だけのチェルシーだったのに」
襲撃の理由を警察に問われて、そう繰り返しているとのこと。
折しもチェルシー先輩は、順風満帆なアーティスト活動を送り、活躍の場を全国区に拡大しようとツアーを組んでいた矢先でした。腹部に受けたナイフのせいでツアーを断念。隣町の総合病院の外科に入院中です。
「お見舞いに行こうかって言ったら、当面、ノーメイクだから遠慮してほしいって。先輩らしい」
先輩の口調は明るかったそうですが、自分の
「チェルシーなんて大嫌いだ。居なくなればいいのに」
取り調べで動機を
「熱心にライヴに来ていた子だ。親しく話したことはないけれど、僕は彼をよく知っている」
月彦は意外にも、犯罪を起こした人物を責めず、むしろ共感を示します。
「愛している。それって、裏を返せば憎んでいるってことなのかな。僕には分かる。このタイミングで、チェルシー先輩を
インディーズ・シーンで絶大な支持を得て、メジャーに
「全国区に、なってほしくないんだ。チェルシー先輩が失敗したらいいなんて思っていないよ……否、ちょっと思っていた。やっぱり全国区なんて私には無謀だったわって笑いながら、僕たちに近いところで、アニメをモチーフにした歌を披露する先輩で、ずっと居てって願っていたんだから。あくせくと活動範囲を広げて何になる? チェルシー先輩には、この
それは
飛び立とうとする羽根を
「共感できるよ。僕にも犯罪者の血が流れているのかもね。いちいち面倒くさいメンタル
拗らせているのは確かですが、いちいち面倒くさいとは思っておりません。どちらかと言えば一緒に身体を傾かせて、拗らせきってしまいましょうというポジションですから。
「泣きそうな
私の表情が拗れていたでしょうか。月彦が私の左頬に片手を
「僕は
「健康なときだって、私は月彦くんを愛していたわ。病めるときも健やかなるときも……と言うと、ありきたりだけれど、私はどんな状態でも月彦くんを見ているわ。他の人じゃ駄目なの。月彦くんじゃなきゃ駄目なの」
狂わんばかりの少女の
「他人の無理解に苦しんだ。苦しみは消えない。でも、今となっては苦しんでいない。何故だか分かる?」
光の入らない卵のような布団の中で、月彦が
私は身体と心と声をぎゅっと閉じ込めていました。
月彦と私は、他人同士ではなく一心同体の、生まれたくない
「
月彦が
「私たちは共に苦しむ異端の愛で結ばれているのだわ。私こそ
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