26.血塗られた、お遊び
愛し合った後は、お
ローマ時代の貴族が、スポーツのように身体を交わらせた
本当だとしましたら、本能に忠実な
ストイックの
何てふしだらな、けれども
「このサンドイッチは特別
数ヶ月前、プロテインドリンク一食分の百六十キロカロリーを恐怖していた
「マーガリンは血管を固くするトランス脂肪酸を多く含むから、食べたくないよ。アメリカではトランス脂肪酸のみならず、ベンゾジアゼピン系向精神薬も取り締まりの対象だ。僕たち、呑気な国に生まれて良かったよね」
月彦はリストカットで救急搬送以降、医師の処方どおり、
私は月彦のお母様お手製のヘルシーなサンドイッチを食べながら、時代とマスメディアが精神に及ぼす情報の危険を打ち明けます。
「脂肪の
棚に設えられた小さいスクリーンも、店内のスピーカーも、高血圧・高血糖・高脂血症への警鐘を鳴らし続け、その音は成長途上の少女たちの耳に入り、彼女らは塾通いのお供に、脂肪を落とす特定保健用のドリンクを買い求め、やはりゼロカロリーゼリーを好み、
「そうだね。ドラッグストアはダイエッターの宝箱。僕は今でも、そう思うよ。腹部の脂肪を落とす漢方、本当に効くの?」
「効くわよ。下剤ほどではないけれど、お腹を緩くする効果が期待できるの。
「証って何?」
月彦と私は、三切れ目のサンドイッチに、同時に手を伸ばしました。
触れ合った指先の冷たい感触を好もしく思います。
「大きく分けて
「僕の周囲には、あまり居ない人種だ。それで、もうひとつの虚証は?」
「虚証は体力が無い人。
「
月彦は私の話に熱心に耳を傾け、
「血液の巡りが悪いの。虚証は往々にして貧血気味だから、血が淡いとも言える」
「そうか。エリザベートが、がっかりするね。実証の乙女を集めて、濃密な若返りのエキスを作るべきだ」
乙女の血液には若返りの作用があると信じて、殺人鬼に変貌して血液を搾取した伯爵夫人・エリザベート。その血塗られた歴史を、月彦は詳しく知っていました。
「乙女の血液を搾り取って、溜まった血液の浴槽に身を沈めることで、アンチ・エイジングを試みただなんて凄まじいね。トランシルヴァニアに住んでいたらしい。ドラキュラ伝説は、その地方発祥だ。僕も今夜はドラキュラだ。日芽子さん、
規定量のサンドイッチを食べ終えた私たちは、さて、何処へ向かって生きていけばいいのでしょう。
「私、サンドイッチを六切れ、食べてしまったわ。月彦くん、どうしたらいい? 食べ過ぎたかしら?」
ストイックな自己管理の果て、固定観念の
今更、月彦の気持ちが分かりました。僅かのレタスとトマトとキュウリでさえ、不安の種に成るアノレキシアの根の深さ。不安の蔓は
「どうもしなくていいよ。そのままで。たまに今みたいに、はっちゃけていればいいんじゃ……わぁ! チェルシー先輩からメールだ。うちあげ会場はレストランを貸し切ったわよ。あなたたちも、いらっしゃいな」
マナーモードの端末の震えに驚く月彦は、『トキメキ❤フルール・コレクション』に瞳を輝かせたころと同じ。
私は、そんな彼が、いとおしい。
大好きで大好きで、たまらないのです。
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