第14話事前準備は楽曲とともに

「ほう、どうしたのかねお嬢…いやF女史。」


「べつに…貴方の顔を見に来たということでは無い事は確かね。」

エリーゼはいつも通りの減らず口で挨拶を交わす。もともと名前を呼ばれるのが嫌なのでミスFとかF女史と呼ばせている…しかしどこぞの趣味サークルの真似事がしたいわけでは無いのだ。

そしてエリーゼのプロフィールを見て「おお見目麗しき姫君の情熱的な名前…まさに貴女にふさわしい」とかいう輩から距離を置く為にこの山の中の工房にわざわざ入り浸っていた時期もあった。

最近は来ずに済んでいたのだが今日は事情が違う。


そう、今手を煩わせている案件は予想以上に難敵だった。

事前の想定を遥かに上回るいやらしさとしぶとさでこちらの思考と足元を絡めとろうとしてくる。

相手が人間や魔獣なら正面から叩きのめして終わりなのだが、そういうスタンスで乗り込めばたやすく出口の無い迷路へ一直線だ…今回ばかりは「負けを認めなければ負けでは無い」理論は通じない。

だが彼女の忍耐力と精神力はそろそろ限界だった。一人で片付けてしまえば達成感は独り占めだが、これ以上意地を張っても負け戦の負債は膨らむばかりだ。

そしてエリーゼは今日とうとう観念してここに足を運んだのだった。

認めたくない事実を背負い続けるのにほとほと嫌気が差していた、ということもある。

そして意を決して今日の本題を投げかける。


「ねえ、”カーネル”。貴方の大好きな優越感が得られる題材があるのだけれど、話を聞いてみる気は無い?」

まるで恵みをもたらす女神のごとき振る舞いで話しかけてきた彼女を見て、”カーネル”と呼ばれた彼はなんとも晴れやかな表情で頷いた。

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