第10話下天の都の信奉者

これから救われるかどうかは貴女の心がけ次第なのですよ?ミス・ヴィルノア。

「御使い」は確かにそう告げてきた。

その日から煌々と目の前を照らしてくれていたはずの光源は、路傍の石くれと同じ程度の存在に見えていた。唯一無二の宝石をも眩むような輝きを発していた理想も今は薄汚く煤と埃に覆われてみる影も無かった。

「天界からの使者」を受け入れて数日…そう僅か数日の日の事だった。

様々に赤裸々に語られる天界の「現実」。

神々の派閥争いや権力闘争、下界の支配権や利権確保闘争。

「聖典」の意図的編纂と恣意的運用…それは崇めていた偶像の世界とはまるで別物だった。

そして日々の働きをさぞ慈悲深く労ってくれると信じていたところへその言葉。

耳を疑う事すら思い至らないほどの崇高な声色で伝えられた言葉。絶望や失望などどいう言葉では言い表せない喪失感はフィンセントの心に暗闇をも飲み込む虚空の穴を開けていた。


ああ、そうか。結局はあなた方の考える可能性の檻で管理される人形でいろということなのか。

それならば私の行使できる力の範囲内だけでもその檻の中を楽園に変えて見せよう。

そしてお望みの神話を捧げて差し上げようではないか…神々もお望みの未来とやらをわれわれの側で編纂してみせよう。

フィンセントは幼い頃よく子守唄代わりに聞かせてもらっていた”原典”のなかのおとぎ話を思い出して、自らが描く世界の設計に取り掛かることにした。

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