第6話合理的判断の選別場にて

なんとも美しい、華やかだ、素晴らしい…

彼女の描いた「物語」に対してその場の皆が自らの思いを尽くして賞賛を贈った。

立ちはだかった幾多の壁も打ちのめしてきた理不尽の数々も、今や彼女のプロフィールに華を添える勲章として輝いているようだ。

これからの道行きもこれで安泰と誰もが競って祝辞を述べようとしている。

その夜の祝杯の味は確かに彼女の自我と魂に刻まれた筈だ…

この先の「日常」の鋳型として。


「正しい、合理的、間違ってはいない…つまりは面白くないってことね。」

朱鷺子は上がってきた資料を無造作にデスクの上に投げ出すとそう言い放った。

意気揚々とその書類を提出しに来たチームの紅一点は突き出された言葉の意味を理解できずに、いや受け止めることができずに固まっていた。まるで想定外、というどころのショックではなかったらしい…

読んでもらえなかった2ページ以降の書類はこの先日の目を見ることさえないのだろう。しかしその存在の悲しさも今は共有できそうにない。この提案には自分だけではなく、一緒に取り組んでくれた仲間たちの努力とかけがえのない時間の結晶なのだ。

ここでうなだれて帰るという選択肢を選ぶことは許されなかった。

それでも理由が聞ければ、いやこの際「0からもう一回やりなさい」でも構わない。

一言でも言葉の応酬をしてもらえればいい。それで私はまだ戦える。

折られかけた自分の意思と自尊心をなんとか建て直し、彼女は朱鷺子の目を見据え…

そこで彼女の意識は断ち切られた。

朱鷺子は操り糸の切れたマネキン人形のごとく倒れこんだ彼女を引き取らせるため、チームのチーフを呼びつけることにする。

その際交わす言葉を一切考えることはしないままで。

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