第5話理不尽仕様のオアシス行きチケット

闇夜の中にも安息と規律は必要だ…当然の帰結である。

それを日常とした現実を過ごしているならば尚のこと。「現実はつらいぜ」は日の光が差すところでしか使えない言葉だからだ。

彩河は根城にしている外資系ホテルの一室から眼下の光景を見て考えることが最近増えていた。


オアシス・聖域・夢の国。人はとにかく「楽園」を創りたがるものだ。

そして創ったからにはその居心地を共有した上で賞賛されたいと願う…一般的な人情なのだろう。

湯水のごとき公金を突っ込んだであろうあの「観月会」もそのひとつというわけだ。

あの御前がいかにも考えそうな事である。

勿論招待はされていたが招待状は即効破いた…子供じみた反抗の証である。

いや、冷静になって保管しておけば事あるごとに役に立っていたかもしれない。惜しいことをしたか。

彩河はやりもしないだろうことを考えて思いにふけった…あの頃ならばそれぐらいの「正着」をやらないなどということはなかっただろう。

そう、かつて我が身を縛っていた茨の枷とそれがもたらす痛みと嘆きは唯一の生の実感であり、自尊心の拠り所ですらあった。

私はこの困難をも生きる力に変えているのだと思い、誇らしくさえ思っていた。

もうそれは遥か昔の感傷であり、「卒業アルバム」の中へ置いてきたものだった。

だがもうあの頃を懐かしめる人間らしさは望むべくもないかな…彩河は「アルバム」の方へ視線を向けかけてやめた。「幸せな時間」はもうそこには収まっていない。

ひとしきりヒロイックな感情を味わっていると、先ほどの風景に変化があった…なにやら人がたくさん集まりライトアップが始まった。


ああ、あそこにも自分の創った「楽園」を得意げに話す者がいるのだろうな。

わざわざこのベイエリアのど真ん中でやろうというのだから余程の仕上がりなのだろう…ちょっと覗いてみようかな?

彩河は新たに生まれただろうオアシスに狙いを定めて不遜な笑みを浮かべた。

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