第4話日々の憂鬱に花束を

「公平であるべきはそこではないのでは?」

アルヴィナの視界の端から不躾な言葉が放たれた。

一瞥し玉座の上から睥睨して見せるが、その者は怯むどころか真摯な視線を返していた。

その瞳に宿っているのは救世の英雄を思わせるような意思の光だ。

忌々しい物を見せられている。

アルヴィナは思わず眉をひそめそうになるが冷静を保った…そう、奴はマクシミリアン殿の特使だった。気を利かせた私の側近が首を落としてしまえば関係は悪化などという程度では済むまい。

その一瞬の逡巡が伝わったのか、その特使は改めて恭しく跪きアルヴィナに発言許可を求める。

しょうがあるまいか…命を預かる盟約もあった。この場は耳を貸してやるか。


特使の主張と持論が展開されている中、ざわついた謁見室という珍しい状況に側近や衛兵達も明らかに狼狽している。

雷蹄皇の御前で発言しようなどという発想がそもそも想定されていない。

しかも動揺が波及するなどといった異常事態が発生するということすら考えたくないのがいつもの日常だ。

そして驚きはそれとは別に現れた。

なんと自陣の戦略の組み方や能力者への扱い、戦術運用の在り方までも提言し始めたのだ。

言葉通りの意味で雷が落ちるぞ…などと考えた不届き者は必死にそのふざけた発想を脳裏から消して直立不動の体制を維持することにする。

凍りついたその場の空気はもはや生物が息をすることすら許容しないほどの重さでのしかかっている。

その威圧感を隠しもせずにいたアルヴィナだったが、特使の瞳の光に懐かしさを感じる自分を不思議に思い今の時間を特別に記憶しておくことにした。

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