第3話血統を受け継ぐ”伝説”達

飛天血統の七代目にして斎木の御前の孫娘。

それが彼女の日常を縛る鋼鉄の鎖であり、内部の人間ですらそれ以上の情報は得られない。

しかしそれによってコミュニティの安全も守られていた。

それ以上を望んだ者達がどうなったかすら見当がつかない…人知れず彼岸を渡ったか粛々と鬼籍に名を連ねたか。どちらにせよ現世での生存権は保障されなかった事だろう事は確かな様だった。

その自然の摂理レベルで維持されていた「現実」こそが関係者達にとっての唯一のリアルだったのだ。

そう、あの「小さな大天使」の崩壊による因果の大改編が起こる前までは。


「…というのがおじい様の描いたシナリオなのよね。孫娘愛を惜しみなく注いでくれる事には感謝しかないけど、その度その度に「現実」を組みなおされる人達によってはたまったもんじゃないわね。ってちゃんと聞いてくれてる?新名ちゃん。」

「大丈夫よ。しっかり聞いているわ…愛読書のシナリオ進行が気に入らないから出版社の社長室に押しかけて、その後たっぷり怒られたって話ね。」

案の定完全スルーだった。いつもの平常運行だ…以前怒らせたときは周囲1キロ以内の使用人全員が精神を病んで復帰に半年を要した事は黒歴史のひとつなのである。

若葉は地雷原から遠ざかる賢い選択を選び、ティータイムを継続する。

「それにしても”女神”顕現から色々な事が起きすぎてない?私の把握している中でも機密レベルが高いものがゴロゴロ出てきているのだけど、組織としての対応はどうなってるの?」

「そうね…貴女が出張るほどの破局的危機はまだ起きてはいないし、そんな局面が予測されたら私達現場担当はここでゆっくりお茶なんてしていないから安心していて。」

新名は先ほど出された「自宅警備」指示を語ることはしなかった…目の前の天性のトラブルメーカーに与えていい情報では無い。

そして彼女の意識を逸らすためだけの言葉を選んで話す。

「そもそも貴女には羽衣様から伝授されるべきものが山ほどあるでしょう?そちらの進捗はどうなの。」

「いやあ…それがどうにも合わないんだよねウマが。根性注入しかされてないからね…それがなんとも。」

気がつけばいつものサラリーマン風談義が場を支配している…若さが足りない。

若葉はガールズトークで盛り上がれる同世代の少女達が今ほど羨ましくなった事は無かったのだった。

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