第2話論理の森の眠り姫

グローバル・リテラシー・ネットワーク社。

またの名を知的遺産統制機構の異名で呼ばれるその国際的企業グループはひとつの「お気持ち表明」ブログから始まった。

今では誰も読まなくなったそのブログの序文には当時の社会への運営体制への不満だけが連ねられていた。

その当時を知っている者たちからすれば、今の変貌ぶりに驚いていることだろう。

次第に創業者の熱量と熱意は現状分析と環境攻略論へ向かっていった。

そして異能研究論説を語りだした彼が異能開発を手がけるようになるまでさほど時間はかからなかった。

それに加えて「ボーダーライン」と呼ばれる異質化特定点、そう能力の上限突破条件が彼のコミュニティから科学的に発見されると、彼らの会社は一気に異能者派遣のパイオニアとしての地位を確立していった…

彼とその創業メンバー達が望んだ未来とは違う形で。


…とここまで読んで、神奈は「自叙伝」を放り投げてぼやき始める。

「いかにも自分大好きなあの人が書きそうな物語ね。”偉人伝”をしたためるのが楽しくてたまらないってのが全編通して伝わってくる。ほんとしょうもない奴よね。」

「神奈ちゃん…そんなにおじい様の事嫌わなくてもいいんじゃないの?」

「あのね、若葉。これは私のアイデンティティと自我の尊厳にかかわる一大事なの。あなただって斎木の歴史を続ける為だけの歯車として扱われたら嫌でしょう?」

神奈は目の前の幼馴染にゆるがぬ自然の摂理でも語り聞かせるかのように熱弁してみせる。

「確かにそうではあるけれど…でも…」

反論はその場の空気に流されていく。思わぬ図星を突かれて彼女はうつむいた。

神奈は二の句が告げない幼馴染を見て満足して持論のマシンガントークを始めた…

そうして彼女達の”自分探しは”まだまだ始まったばかりだということは本人達には知る術がなかったようだ。

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