水瓶座の時代の乙女たち”シーン・クロニクル”
@sinati
第1話酒宴の庭の監視員
「この現世の論理が破綻しているからこそ我が創作してやっているだけの事。それに対して相違はなかろうな?太郎。」
「はっ…仰せの通りにございます主様。私めのような浅慮の者にはとても描けぬシナリオを毎度賜れること、真に光栄でございます。」
部屋の灯りが”彼女”の機嫌を表すかのように揺れ動いた…茜はその異様なやり取りを見ていることしかできなかった。
いつもの横柄な態度をどこかへ捨ててきたかのような政界の重鎮は露骨にへりくだり、臣下の礼を過剰なまでに演じている。
この厳かな空気の中でこれからの「宿命」が編まれているのだと思うと身震いが止まらない。
莫大な公的資金で運営されているに違いない筈のこの場には”彼女”のお気に入りの嗜好品や人員が揃えられており、鑑賞されるのを順番に待っている。
”月光妃”へのお目通りの会、通称「観月会」の名で呼ばれるこの場は「普段は手の届かぬモノを皆で愛でよう」という名目で催されているのだが、誰もがこの国の品定めそのものの場だということは暗黙の了解だ。
立憲主義の法治国家という表向きのスタンスから物申す輩はここに存在しない。
妃の洗礼を受けていない者がいる筈はないからだ…という事前説明を受けていた茜は自分が駆り出された理由を不思議に思ったものだが、なるほどここの空気には覚えがある。
生殺与奪の権限が下賜される場だというのに母体の胎内のごとき心地よさ。
まさに絶対的存在に身を委ねている時の安心感と全能感は神話の主神格を前にしたときそのものである。
これは耐性のない者の自我は砂糖菓子のごとく溶けていくぞ…と思い至って式神の制御具合を確認した茜は自身の式神が異様な瘴気を発しているのに気づいた。
鎌首をもたげた蛇のごとき視線が茜の自我を絡めとるのに刹那ほどの時間はかからなかった…そして新しい人柱と成り果てた茜であったものは新しい主に恭しく跪いた。
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