第10話信念と疑念が呼ぶ確定事項
扱う者の意識を例外無く蝕む蠱惑の器。
ガラス張りのその心はいつでも理想像を映し続ける鏡面存在であり続けた。
その在り方にステラは改めて自らの胸の内にしまってきた後悔を噛み締める。
自分に何ができれば事態はここまでにならなかった…とか考える傲慢を飲み込んで器に蓄積された魔力を解析していく。
あまりにも生々しく詰め込まれた人の意思の成れの果てがステラの意識を支配しようと絡みついてくる。
それらを「理解」し取り込むことがせめてもの贖罪になると信じて「彼ら」の歩んだ道のりを踏襲していく。
あるものは不老不死を自らの中に幻視した。
あるものは不滅の理想に恋い焦がれた…そんなものあるわけが無いという「理性」はもはや「現実」として成り立たなくなっていた。
そして果ての無い成長と発展などありえないという「真っ当」な主張で器を扱い人心掌握を試みた者もいた。
無論彼らは器により自らの願望を皆の前でさらけ出されて醜態をさらし、表舞台から追い落とされたのは記憶に新しい。
それでも我ならば、私ならば大丈夫と手を伸ばす者は絶えずに需要はどんどん高くなり続けて対価は青天井になり「取引」は破綻する…器の存在理由が害なるものと定義された瞬間だった。
そこまでを一通り「読み終えた」ステラは今度は器そのものの意思に接触する…今度は起こりうる未来を読み解こうとするように。
しかしステラの望んだ予測は現れることは無かった。「彼女」の問いへの答えを得ることは叶わなかったのだ。
…この時点でステラにとっての器の価値も消滅していた…工房の奥へ眠りにつくという器の運命も確定した。
しかしいわくつきで殿堂に押し込まれた器はそれでも現在進行形で夢を見ている。
自分が幸福を生み出せる要因を具現化できるという根拠なき確信の元に。
「…とここまでが「公式記録」ということですか。誰よりも敬虔な信徒であり魔術文化圏の模範とも称賛された貴女がここまで隠し立てする真相がどこにあるのか。私には教えてくださいますね?ミス・ヴィルノア。」
フィンセントに遠慮なく詰め寄ったディーナは交渉材料を出し尽くしたあとにも関わらず優雅に言葉を紡いだ。
裏付けが取れているというだけの事ではない圧倒的確信の元に突き付けられた降伏勧告はフィンセントの心から交渉という選択肢を奪うのに十分な要因となった。
このままでは今まで積み上げた功績も実績も剥ぎ取られて隠遁という名の禁固刑を受けるのは決定事項だ。もしくは魔導器の一部となって永劫の時を人柱として過ごすことになるかもしれない。
それでも口を割ることがそれ以上の破滅を具現化することになるのは間違いなき「現実」。
…フィンセントの自我は我が身への永劫の責め苦かこの地にもたらされる破滅かのどちらをも選ぶことができずに一切の選択権を信望する神へと捧げる事に決めた。
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