第8話保有と許容の相互関係
”アルカナ・コード”のラインが動くことによって今までの罪も不敬も許容されるだ、と?
奴は何を考えている…あれの真意を知っているものはいないのか。ああ、お前では話が通じんな…「スナップ・キッズ」の管制塔へ非常用回線で繋げ。私が直接問いただすッ。
厳かな拝礼の場である筈のこの場が一気に俗世の空気に満たされて、リユニは愕然とするのも忘れて意識を手放すところであった。目を回す余裕すら今は用意されていないようだ。
飛び交う固有名詞の渦と喧騒は今までの信仰が積み上げてきた静粛な内的世界を明らかに支持していない。
私が今まで見てきた世界にこのような要素が含まれていたか?それとも大司教様の笑顔も信徒の皆の穢れなき信望も私の中にだけ存在していた幻像であったのか?
リユニは突如崩壊した自我の拠り所がそのまま霧散していくのを感じた…まるでそういう魔法でもかけられたかのようだ。正義と理想の形も揺らいで輪郭を失っていく。
そしてつい先ほどまで神格化すらしていた偶像へ鋭い視線を突き刺した彼女は、混沌渦巻く聖堂の中を歩きだしていた…これまでの自分の歩みの意味を確かめるがごとく。
「いくら特別な力を持っていようと一介の修道女がその場の魔術的異界を一時でも支配下に置いたと。まるで信じられん…いかに普段使えないあやつも大司教としての格には問題なかった事は任命した私がしっかり確認してあった筈だが?パラケルスス…貴様の人形達にも状況が把握できないとはどういうことだ?」
「問題はそこではないですわケテル猊下。彼女の魔力領域はただならぬ信仰心を持ってこそ組みあがり、「主の祝福」を具現化するもの。その根本要因をリユニ自身が否定するなどという事が異常なのです。」
噛み合わない意思疎通はルーベラとクラリス双方の意識を炙っていたが、状況の確認と認識をすり合わせなくては事態の把握にも取り掛かれない。論点が感情に飲まれては物事が進展しない。
クラリスは激高寸前のルーベラの意識を冷却すべく事実の列挙から始めることにする。
「現場にいた「キッズ」の生存率は3割程度、取得できた視認データは7分ほど…それだけでも「状況確認」には十分でしょう。リユニがイレギュラー個体になっていない事はせめてもの救いですね…それに」
そこまで話を進めてこの場の違和感を察したクラリスはルーベラの瞳から感情の色が消えている事に気づいた。この場の空気が不穏な重みを感じさせ、捕食者のごとき威圧感を放っている。
これが噂に聞く「摂理結界」か…直接の神の器と同等以上の権能を振るえるという話だが、私を「人形」にしようとはなかなかの面白い話ね。それなら私も創造者として向き合うこととしましょう。
…この場全ての因果を我が物にしようというルーベラの不遜な在りように対して自らの存在を主張するべく、クラリスは愛し子たちをこの場に転移させる。
そして始まった異なる「母性」同士の衝突はこれからの「現実」の在り方を塗り替えるのに十分な力を持ってこの場に具現化した。
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