第7話純情と熱情の伝達不備
ふむ、もしヴァルハラに至ったなら何を望むつもりだね?もしかして世界の救済とかではなかろうね。
…そこから紡がれた言葉は予想通りの情報の羅列だった。諫めるでも咎めるでもない情報の束。
なんとかそれを要約すると「いまだに神域や天界が清らかなものだとは思っていないよな」という感じであった。
自分の意識内の「現実」は唯一無二という前提は普遍的。
そういう事にしてあるのは言わなくても察しろというのはいつもの事である。
それを飲まない人間を排除してきたことも彼にとっては正義。聞き手も選別されすぎて私以外は残っていない事は考えたくない限りだ。
そして小一時間語りつくした彼は「「神様」にも都合が悪い事は存在するさ当然だろ」、と誇らしげに胸を張って演説を締めくくった。これほどパーフェクトな論理展開は望めない!との確信が痛々しいほど伝わってきて胸焼けがとまらない…聞き手の未来を開いてやった、との満足感に陶酔するその姿が見るに堪えない。
しかしその思考の積み重ねと自身のアイデンティティこそが「清らかな世界」を体現させる意識の鍵だという事を自覚しないままに談笑は続いていった。
「…。」
「リッパート一佐、意識を確かに持ってください。まだ報告動画が5分弱ほどしか経っていません。」
サーニャは憮然な表情を崩さないクレールに対して無駄とも思える呼びかけを行った。
そして組織本部に呼ばなくて良かったな…としみじみ感じていた。現場の統括官がこの状態では役員達の印象も悪かろう…メイド長の胃に穴が開く程のストレス源と不測事態は一つでも減らさなければなるまい。
彼女の役目は役員達への「翻訳」が務めであるため各方面の指揮官との密な関係維持は義務である…しかし今回の報告事案は言葉で表現できる要素がほぼ無い。このままでは「こんな時の為の超常能力では無いのかね?」とか言われかねない。
理解は示さないくせに神の奇跡めいた事は当然のように要求する「役員会」の面々の不満顔が脳裏に再生され、サーニャは崩れ落ちそうな自我を精神力で繋ぎとめようと使命感を奮い起こす。
自分が倒れれば機能不全になる各経路は多岐にわたり修復もままなるまい…まだ引き継ぎのセッティングもままならない状況であるのに。
クレールはサーニャの顔にありありと浮かぶ疲労感と徒労感を見て取ると、直轄部隊による「役員会」の制圧任務案を走らせる算段を組み始めた。
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