第5話衝動と情動の螺旋回廊
そう、あの国の皇族しか使えないという例の術式…俺用にカスタマイズができるのだろうな?
グラスを開けた直後に出てきた言葉がそれだということが事態の危急さを端的に示している。
どうしてこの場でその選択肢を選んだのか、それしか選ぶ事ができなかったのかはこちら側で勝手に察してくれと言わんばかりの威圧感がこちらに向けられていた。
かつての女神顕現の前はこのような抜け穴を漁らずとも確保されていた我々の「権利」。
相手は超自然の存在で原理や摂理も思いのままだと思い知らされた日々…しかしこれまでの蓄積が全部無に帰したわけではない。
だが、磨きぬいた銃の扱い方も超常能力者との戦い方もことごとくがリークされ丸裸の組織内部の混乱はいまだに続いていた。組織の上層部が丸ごと丸め込まれた程度では今のこのガラス張りの展示物扱いが現実となっている事に説明がつかないではないか?
まずは納得いく説明から入るのが筋…というまともな意思疎通も望めないこの場では周りのSP役の能力者達に力づくで屈服させられるのがただ一つの現実に違いない。
一応用意してきた儀式用の祭具はもちろんダミーだ。用済みの内通者に未来を用意するような義理は通じないのが当然のこの世界…今ハッタリと嘘で渡りきる器量が無ければそもそも明日の朝日も見ることはできない。だがはいそうですかと今日以降の人生を投げ捨てる気はさらさら無い。当然の事だ。
…一通りの状況確認で頭のギアの暖気運転を終えた彼は対面しているクライアントに価値ある嘘を売りつけるべく舌戦を開始した。
「とりあえず柴原さんの見解から聞くけど、何か確認しておきたい事はある?」
「鯨井女史…まずこの話の基礎ファクターからもう一度説明して下さい。今回「落とす」対象人物のプロフィールとかも解説してくれると嬉しいかな、なんて」
琴美はルカに対して最大限の配慮のこもった言葉を投げた筈だった。
しかし明らかに気分を害した様子のルカはわざわざ書類の山を指さして「もう一度最初から講義を受け直す?」というアイコンタクトを返した…ガチでまた一コマ1時間半の説教めいた説明を一週間分やり直す気であることが顔にありありと書いてあった。
琴美は吐き気を催す想定を頭から振り払って必要な情報を自分の頭から引き出そうとする。
ああ、「情報管理監査部の執行役員が敵性因子に機密を横流ししてたから速やかに廃人にしてこい」だったかな?
一言二言のカタコトな日本語でその理解度をルカに示した琴美は嬉し気にサムズアップされた事に途方もない不安感を抱かずにはいられなかった。
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