第4話論理と稟議によるオリジナルロンド

この場に満たされた灼けたバラの香りが全てを語っているようだった。

ここに至るまでの日々が走馬灯のように再生されていった。

理想の始まりを語り明かした日々。

初めて成果が出た日の祝祭めいた夜。

これからの悠々たる未来を思い浮かべて杯を酌み交わした宴の熱。

今思い出すとその全てがセピア色に色あせている事を殊更に実感する。

かつて魔術炉の中で生きたままくべられた同士達はエネルギー変換される瞬間まで私の掲げた理想を信じてくれているように見えたのは性質の悪い自己陶酔だったのか?確かめる術は無い。

そしてこの場に至った事でできることが何なのかまだ想像もつかないが、引き返す事は今まで犠牲にしてきた全てに対する背任と冒涜そのものだ。到底許されることでは無かった。

そう、目の前で手を差し伸べてくれている少女の手を取ることから始めよう。

プリンセス・ローズの持っている権限と異能、その秘術によって私は今まで払ってきた対価を取り戻すのだ。

…歪な使命感と邪な打算を包み隠している気でいた彼の意識は次の瞬間冥府の扉をくぐることとなった。


「プリンセス・ローズ、ローズマリー・フォンブリューヌ卿…お忙しい中、時間を空けていただいて申し訳無い。なにか手土産を考えたのだが、貴女のような高貴な身分の方に何を持参してくればいいのかわからず失礼をしてしまった。重ねがさね非礼をお詫びしたい。」

「別に構いません…顔を上げてくださいませベルッティ様。私も面倒事をひとつ解決してもらいましたし、こちらこそお礼を用意しなければならないでしょう。遠慮なさらずになんでも要望をおっしゃってください。」

アイギナはローズマリーの可愛らしい笑顔を困惑した様子で眺めていたが、すこし思案の後に図々しい「お願い」をしてみることにした。

「それでは今度のロイヤルフラワーズのお茶会に招いて頂けませんか?こちらも冥界や周辺の機密を共有する用意があります…今回のようなことも気兼ねなくお受けしましょう。どうです?」

ローズマリーは打算めいた言葉に少々不快感を覚えたものの、その提案を受けることにした。

様々な方面のチャネルはこれからより必須になることが目に見えているからだ。

…それにどれほど興味深い事をお話になってくれるのかきになりますし、ね?

ローズマリーの「快諾」を受けて恭しく礼を示したアイギナは脳裏によぎった魔獣の檻の気配を意図して意識から排除し、にこやかな笑みを返した。

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