第3話始点と原点の懐古記述
このカクテルの名前、「シリウス・トレイル」なんてどうかな…そう、全ての星の基点が辿ってきた道。
ちょっと壮大なストーリーを感じない?
それはセッティングされたこの場に興味無さげな真純の意識の扉をノックした最初の言葉だった。
彼女はその様子を確認するとその鳶色の瞳を輝かせて、たった今生まれたばかりの愛し子を嬉しそうに眺める。
あまりにもその様子が微笑ましすぎて真純が呆気に取られているとロンググラスが彼女から差し出されてくる…ここで拒否する権利は認められまい。覚悟を決めてグラスに向き合う。
そして彼女の意識が溶け込んでいるかのような宵闇に似たその色合いは何ともなまめかしく感じられる。
アルコールは得意ではないけれど雰囲気だけでも味わってみるかと一口含んだその時、真純の意識は重力から解き放たれた。
…まるで彼女の描いた満点の星空へ吸い込まれていくように。
「それが真純さんがあの人のお酒にご執心になったきっかけですか…いちいちお洒落な導入で共感力が働きませんね。結城さんはそういうの得意な方ですか?」
「近藤さんはそういう話嫌いなの?私はこういう話に憧れちゃう方かなあ…」
「いいですよ詩奈で。私も結城さんのようにふんわりした可愛い服が似合うようであれたらと夢は見ましたけどね。」
望と詩奈は当たり障りの無い言葉で間合いを図って話のとっかかりを探している。
まるでキャスティングの決まっていない台本の読み合わせでもやっているかのようだ。
しかし時間は無限では無いしそれぞれのスケジュールは詰まっているのできっちりとこの件を捌かなくてはいけない。ゆるふわガールズトークに割く時間は本来無いのである。
「…つまり今回の事案は真純さんが一服盛られたというだけでは留まらない、ということですよね?」
「そう、”天使”の力を部分的にでも行使できる彼女が狙われたからには例の”石”の実験の可能性が高いの。人間の完全な”天使”化が意図的に促進できるのであれば今までの戦況や情勢が根底からひっくり返る事になる。詩奈ちゃん…あなたの力も同種のものの筈。「天使」を生み出し能力者をも縛るその能力が狙われないわけは無い。そして」
望は踏み越えるべきで無い領域を超えてしまった事を自覚しながらも一度言葉を切って詩奈に了承の意思をアイコンタクトで確認する。その瞳に怜悧な光が宿り、人間味が薄れていくのがわかる。
詩奈は読心・感応系複合能力者である望に隠し事ができないのを承知で紡ぐ言葉を選び始める。
望はそれを「交渉」に応じる意思ありと受け止め、話を進めることにした。
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