第25話要望と希望によるタップダンス

今回の事案は「イマジン・ロスト」か…想定していたよりだいぶ早かったな。

ん、説明がまだだったか。しかしこれは機密情報の中でもかなり危険度が高い分類に該当するものだから話すかどうかは本来上の判断に任せる事になる…しかしお前も暗部実務に慣れてきたところだ。これくらいは話しておくべきかもしれんな。

おいおい…そう怪訝な顔をするものでは無い。

これからはこういったトップシークレット関連の事にも携わらなければならないのだぞ。

この「情報提供」をその身に刻み、これからも存分に役に立ってくれたまえ。

まず周辺のファクター整理から話を始めよう…お前の理性が受け止められられるところまで、な?


「それでめでたくその彼は鉄砲玉として二階級特進して英雄となったと…定番のネタでひねりが無く作り話としては三流以下だな。やり直しを命じよう。」

「いや…それが証言者付きの実話なのです。そしてその話をした当該の上司も僻地行き特攻便でどこぞに飛ばされたのですが。それで、少しはまともに話を聞く気はありませんか弦巻一尉?」


優樹は向けられた棘のある言葉もどこ吹く風で頼んでおいたケーキセットを心待ちにして足をぶらぶらさせていた。

そうここのホテルのケーキはささいな非日常を当たり前の日常の中のアクセントとして提供してくれる逸品なので打ち合わせはわざわざここのサロンを指定しているぐらいだ。

今日の季節のフルーツはなんだっけかな…今回も素敵な出会いを期待したい。

その様子に仕事上のブリーフィングにまるで関心が無いのが丸わかりな優樹の態度に業を煮やした連絡員であるエージェントは強引に情報を優樹の意識に突っ込む事に決めた。

「今回の目的は「イマジン・ロスト」の拡散具合と目下の影響を把握して上に報告する事案です。そもそもこの現象は個人の「聖典」の中身を改ざんしてこの世界での「個人アカウント」を自在に抹消できる術式の事…それに」

「うん、OKOK。理論的に詳しい事はわからないけどそれは対象を自在に「世界の異物」にしちゃえるって事だね。面白くなってきたよ…ずっと世界の真理みたいなのに首を突っ込みたいと思ってたからさ。」

かなり雑な理解で悦に入っている優樹の様子をかなりげんなりした様子で見ていたエージェントに対して優樹は慈悲の女神のような笑顔でこの事案を引き受けることにした。

もちろん優樹の胸中に慈悲や慈愛など微塵もないことを痛感しているエージェントは携帯している胃薬を何日か分を一気飲みしたい衝動に駆られることとなった。

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