第23話畏敬と恩恵による祭典

その程度の事ならばキャスティングとマッチングでどうとでもなる…君は君の役目をきちんと果たしたまえ。

唖然とする部下に一瞥をくれると彼女は眼下の景色を眺めて溜息をつく。

これほどの景色を眺められるようになるまでどれほどのものを犠牲にしてきたのかわからない。

信用と信頼も数え切れぬほど世の業火の中にくべてきた。

ここでつまづくなど今まで捧げられてきた献身への重大な背信行為である。

…そう、幾度となく教義や社是を決めて来たこの身にもそれは変わらない。どれほどの独裁者でも心の芯を支えるものは人の思いに違いない。

そしてこれからどんな扉が私を試そうとも正面から相対してみせよう。

かつて無上の信頼を預けてくれた同志達がそう願ってくれたように。


「島津様…島津有紀様。お連れの方が西棟クラブラウンジにてお待ちです。いらっしゃいましたらお近くのコンシェルジュカウンターまでお越しください。」

…30分ほど前から何度もアナウンスされている内容を聞き流しながら有紀はお土産店を眺めていた。

ご当地お菓子とかはありきたりすぎるし香水とか買っていってもしょうがないよね。彼女のお気に入りのハイブランドの新商品は来月発売予定だし、そもそも発売前に彼女の手元にあるだろう…そして「VIP対応されるのは未だに慣れないものね」とかのたまうのが娯楽なのだ。頭が痛い。

それで業界の「成功者」コミュニティで戦利品を自慢しあうという遊びをして愉悦に浸るのだ。

この呼びかけに応えれば今日もまた彼女は自分の持てる権限と資産を存分に使って私をもてなしてくれるだろう。

それが今まで付き合ってくれた私に対しての彼女の偽らざる好意であるというのは感じている。

しかし、これから描く未来の道筋にそれを必要とするのは服毒自殺になり得ないか心配なのである。

だがそれを計算に入れないという選択肢は無いのだ。

そしていつまでも結論の出ない脳内論議を続ける有紀の元へ彼女のSP達がお迎えに来るまでのカウントダウンが始まった…正に彼女自身の運命の最後のピースたる有紀の存在を取り込む儀式が今始まろうとしていた。

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