第22話幻惑と困惑によるエスコート
殉教者への救いは神や王からもたらされるものでは無いと私は考えている。
壇上の彼が切り出した言葉に式場の誰もがどよめいた…この場は先進技術の展示や論議が成されるものだというのは暗黙の了解以前の事だからだ。
確かに度を越したオーバーテクノロジーは魔法のごとく見えるのは仕方ないことだし、その根幹が神話の概念を元に組み上げられることもある。しかし彼が伝えたい事は明らかに違うようだ。
今にも「この世に救済など無い」系の自己啓発論が始まりそうな空気が流れてSP達が壇上に詰め寄りかけたその時、式場全体に得体の知れない重圧が圧し掛かった…周囲にまとわりつく空気が重金属のごとき比重で覆いかぶさり各所で肉や骨の軋む音や砕ける音が響く。
そして壇上の彼はその様子を愉快そうに見下ろすと得意気に指を鳴らした。
…彼自らの取り込んだ「秩序」を開放する為の儀式場が完成した瞬間の事だった。
「それで何が起こったかと言えば”よくわからない”…?それは答えになってないよね。何の為にあなたたちが現地にいたのかなー?」
「お言葉ですがフォーマルハウト二尉…私達もお答えできることは頭で理解できた事に限定されます。なにとぞご理解ください。」
通り一編の決まり文句を聞き流したアンネリースは現地の映像記録を再度タブレットデバイスで確認してみる。この場での異質感は何なのだ…?単なる重力場にしては人体への影響が大きすぎるし、物質の比重を変化させる異能か?いやでもそれだと説明できないファクターが多すぎる。
…そしてわざわざ私のところに回ってきた事案だ。”ボーダーライン”絡みの問題であることに間違いは無いはずだが。
アンネリースは辻褄が合わない目の前の問題に組み伏されそうになり苦々しい気持ちを噛み締める。
どういうことなのだと癇癪を起こして済む話なら最初から持ち込まれてこない…因果な役回りである。
むしゃくしゃしている様子が如実に伝わって居心地が悪くなってきた現地のエージェントは観念して口止めされていた情報の一部を目の前の上官に手渡す事を決意した。これ以上駆け引きを続けても得るものは何も無かろうという根気負けである。
そして数分後、その情報に目を通した時の上官の目の輝き具合はなんとも言えぬものだったそうだ。
そうまるで新しくオープンしたテーマパークに連れて行ってもらえると聞いた子供のように。
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