第21話不遜と不敬による祝福
「今、言いましたか?”連理と連環の契り”によってこの戦局を乗り切る、と?」
「えぇ。間違いなく申し上げました…あの神代呪法により我々の道は開けるでしょう。」
頭痛が治まらない。目の前にいるこの件の担当者は自らの言葉に陶酔し、賞賛と受諾の言葉を真面目に受け取るつもりのようだ。
本気で”神様”そのものに問題を解決してもらおうというのだろうか?支払うべき対価も考慮せずに?
およそ想像していなかった提案に思考がまとまらない。これまでの議論は何の為に行われてきたのかわかったものでは無い。
そもそもあの禁呪は自らの存在を神話に織り込み同化することで神域を顕現させるもの。
元々人間の欲求や都合など考慮してくれる場ではないのだ…無論どこぞの経典に書かれている「都合の良い救済」など得られる筈もない。
そしてその身を捧げる資格がある者は神話の主神格を受け入れられる程の器に限られる…そこまでしても望みを叶えてもらえる保証も勿論無いしそれほどの対価を支払えるはずも無い。
わざわざそのへんの基礎から講義しなおさなければならないような人間を呼んだつもりは無かったのだが、この喫緊の事態において私の意識にも「理想論」が侵食していたのかもしれない…いつの間にか私も変わってしまっていたのだ。
子供のおまじない程度の考えで問題が嘘のように解決する幻想にすがる童女のごとく。
「…まさかその話を丸投げしにきたわけではないでしょうね?」
「当たらずとも遠からずといったところです伊雑様。日本神話の原点に携わる神格の依り代であるあなた様ならその後どういう展開になったか見当がつかないということはありますまい。」
かなみは目の前の年配術者に自らの不遜具合を直すように厳しい視線を投げたが、当人はどこ吹く風である。自分が小娘だから甘く見られているわけでないのは長年の付き合いからわかる事だ…しかしこの件は妙である。
単に現場の意思疎通の齟齬問題だけであるならば自分のところまで話が上がってくるはずも無い。
では考えたくないがこの話を私に聞かせることの意味はひとつである。
かなみは真摯なまなざしで話の真意を察する事を待っていた年配術者に今時点の理解度で言葉を投げてみる。
「ふむ、単純に私が人柱になれという案件では無さそうね…早急に美春様にお伺いを立てて頂戴。幻神を例の陣地にお呼びしても良いかどうかの許可を取ってくるように。」
待ち望んだその言葉を聞いた途端、年配術者は好々爺の仮面を消して不遜な笑顔を浮かべた。
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