第20話予定調和な奇跡の軌跡

「そう、それらが”デビルズ・パラノイア”のひとつか…件の”パージ”も一緒って事ね?」

「ええ、ほぼ間違いない筈…かのソロモン王が従えた魔王達の持ちえた権能が具現化した領域型の魔術…いかなる聖別や祝福を受けた魔導器もその概念ごと崩す事ができるといういわくつきのもの。もちろんそれなりの格を持ちえる魔術師や高位の神官、そう最低でも枢機卿クラスの器を必要とするらしいわ。」

着々と進む機密の共有にも関わらず不穏な空気は存在しない…この場の誰もが一人でその機密を抱え込む事が我が身の破滅を決定付けることをわかっているからだろう。

しかし混ざり合う事でよりその脅威度が増すことに誰もが言及しない…それはわかってもどうしようもない事。誰も一人で破滅の因子を背負おうとしないのは自明だからだ。議論の余地は最初からない。

こうしてその夜話し合われた「極秘会談」は当然議事録に残ることは無く幕を閉じた。

無論、誰がこの世の調和を任されるか等という不遜極まりない今回の議題はまとまる事は無かった。


「うん、神様って言ってもいろいろな分類にわけられるのよ。例えば信仰心や自然への恐怖、語り継がれた神話のファクターが具現化したものだったり、その世界の原初の開拓者が様々な権能を得て神格を得るケース、もしくは偉人や英雄が後の時代の伝記などで神格化されるパターンとか様々なわけ。それで…ねえ、ちゃんと聞いてる?オルドゥアン女史。」

「えぇ大丈夫。先を続けて。」

わりとしっかり聞いていてもおとぎ話の中のお話かなぐらいの理解度で聞いていたベレニスは自分の中の辞書に違和感を感じ始めた。いや、聖典の中の記述に疑問を抱くわけでも無いし超自然的な力の存在は知っている。

しかし初等部の生徒に読んで聞かせるような内容が実在しているかに思えるこの話は明らかに常識を超えた範疇の話だ。それに「神格」という単語にも不穏な響きを感じている。

神とは我らが主のみに対応する言葉では無いのか?

彼女は眼前の親友に不信感や猜疑心を抱くのが嫌で「説明」に口を挟むのを控えていたが、ついにその言葉は喉を通って言葉としてこの世に出てしまった。

「それは実際にあらゆる秩序が様々な”神”によって生み出されている、という事?」

…ついに引き出したベレニスの言霊に因果を揺るがす因子の存在を確認した彼女の親友。

この好機により魔術的な制約をベレニスの魂に刻み込むべく、退廃を司る魔女は感情のギアを上げていった。

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