第19話希望と願望、相対する相貌
時には新たな希望を芽吹かせ、時にはどす黒い欲望を孕むその演劇の舞台。
その歴史の始まりを告げる胎動の兆候は本当に些細な日常の変化であるに違いない。
新しい出会いと試みはいつでも外に出る機会を待っている…そして「シナリオライター」の手と思惑によって生み出されるそれらの因果の欠片が組み合わさって想定外の事が起きるのは決して不思議なことではない。
そう、奇跡の母体はいつでも日頃の日常を元に日々を営んでいるのだから。
「はーい!それでは聞いてください!私達マミ&エミのニューナンバー、ハートビート☆イグニッション!」
その声に呼応するように画面の中にわあっと歓声が上がり、ノリのいいイントロが流れ始めた。
彼女専用のクラブフロアの一室でわざわざつけてある地上波の音楽番組の熱量とは正反対な室内の寒気は人が耐えうる温度を振り切っているように思えてならない。
それでも彼女は呼びつけた今回の事案の担当者に冷え切った言葉で説明を求めていた。
「改訂プランC、”パージ・オブ・オルタナティブ”?…この意図の伝わらない文章で納得しろというのは貴方方の言葉遊びで違い無いのよね?」
「僭越ながらブリザード・レガリア小山内様。貴女様が組織内部でどれだけの派閥を掌握しているかは存じ上げませんが、私共は貴女様の直属の部下ではありません。わが主の命以外の事は申し上げられぬことです…ご了承くださいませ。」
紗絵はにべもなく拒絶された事を不愉快に思いながらも凛として自分の言葉を突っぱねた目の前の担当者を咎める事はしなかった。それは心意気に感服したとかではない。
自分を前に自らの存在を賭けてまで忠義を示されたことに関心を持ったからだ。
紗絵の異能は「因果のエネルギー」を果てしなく0に近い状態に引き下げるもの。噛み砕いていえば「あらゆる事象を”氷漬け”にする」力であり、それゆえに彼女が望まない因果は存在を許されない。
そんな神域に及ぶほどの異能を持っている彼女は組織内部の破綻誘因因子でありながら因果律干渉系能力者としての切り札でもある。ちょっとでも実務を齧った者であれば誰もが身に染みて知っている。
それ故に紗絵は目の前の担当者の振る舞いの奥にある彼の主に興味が沸いた…少しでも縁を持ちたい。
珍しく自分のテリトリー外の事に関心を示した彼女は眼前の担当者を口説き落とす算段を練ることにした。
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