第13話自然からの恩恵、人の輪の成す神器
それで今までの懸念を解消できる新たな枠組みとやらはどれほど形になったのだ?私への説明責任を果たせ…純一郎。
それはあくまでも厳かでありながら聞く者の自我を無遠慮に縛り上げる言霊。
対峙する者の心と魂を赤子のごとく退行させるに十分な禍々しさを持ってこの場に響き渡った。
政界のご意見番として一目置かれる彼ですら例外ではなくその意識を侵食されている。
しかし彼もまた政治の世界という伏魔殿の中で永らく生きながらえてきた傑物に違いない…この謁見の場こそが自らの次なるステージへの第一歩として意気を上げて踏み込んだ筈であった。
だがこの場を支配する呪縛の檻の中、彼が紡げる言葉はかなり限定的なフレーズだけである。
何ヶ月もの時間を割いて練りこんできた脚本はこの場に足を踏み入れた刹那で吹き飛んだ…実際に自分が口にしていいことは決められている。そう木偶のごとき今の役割にもセリフはあった。
その屈辱に耐えながらも彼は自分に許可された言葉を紡ぎ出し始めた…そこにせめてもの自らの矜持を込めて。
…その様子をねぶるように鑑賞していた彼の「雇い主」は可愛い子飼いのさえずる様子をいつまでも眺め続けることにした。
「それでそのとき彼が賜った言葉が”お前の組み立てる劇場型シナリオだけが私が唯一お前を好ましく思うところだ…これ以上失望させてくれるなよ?”だったとか。」
「それは救いが無いことここに極まれりね…きっと”鉄砲玉にも愛着を持てる私はなんと慈悲深いのだろう”とか真面目に思っているやつね。」
美奈と新名は組織本部のスカイラウンジで事の顛末を吟味していたのだが、あまりの悲壮な猿回し具合に欝になりかけていたため爆発物トークが止まらなくなっていた。
本来は役員フロアであるため立ち入れない筈であるが、扱う機密レベルがトップに近い物のために特別に許可が下りている。そして今回の議題はそれだけでは無い。
「これはこれとして私が報告書をまとめておくからいいとして美奈、あの自治開発特区でやっている例の事案は知ってる、よね。」
「えぇ、クローン体の意識領域を結合させてそのネットワークで”完璧な事象予測演算”をしよう、とかだっけ…ラプラスの悪魔だね?」
お互いが機密レベルの危険度を確認しあい、ゆっくりと話を進めていく…ここから先は傍付きのSPでも聞かせられない話である。アイコンタクトで人払いをした新名は今回の本題に入ることにする。
「そう、その悪魔に”神々の器”らしき人物がコンタクトを取ったらしいの。それで同じ神の器である小此木のところのお嬢様、詩愛ちゃんにも協力を仰ぎたいのよね…」
そこまで聞いて新名の言わんとするところを察した美奈はこの場で卒倒する手段を真面目に考え出すことにした。
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