第12話普遍化する危機と呪縛
…ふむ、この「漆黒の堕天使」とは何を意図しているのかな?
いやわかっているよ。天界からの侵攻や天使としか表現できない姿の個体の報告が連日上がっていることは私も確認している。
それだけに秘匿回線から送られたこの「報告書」の中身とその記述が気になるのだ。
わざわざ抽象的表現で何を伝えようとしたのか、この表現でなければならない理由があったのか。
それとも聖典の心象世界になぞらえてしか受け止められない壮絶な事が起きたのかはわからないが、この返信が前線に届いたならば対象についてのより詳細な観測事例を送ってきてほしい。
最前線で戦っている同志達の健闘を祈っている…御使いとの戦いを強いられている貴兄らにも主の加護がありますように。
「それでこの通信記録について今日香ちゃん、いや篠崎一尉はどう判断するべきだと思う?」
「そうですね…この「堕天使」というのが”天使”の特異個体を指すのか、それとも異常状態を示すのかわからない現状では私の能力でも予測しかねますね。しかし文月さんはもう進藤家のパイプを使ってこの件を探っていたのでは?」
今日香は文月のノーリスク答え合わせに付き合おうとする気はさらさら無く、追加の情報提供を当然のごとく求める。組織内部の派閥争いや利権事案の為の使いっ走りは鉄砲玉志願に他ならない…それは先見の異能など無くても明白な事だからだ。
より警戒レベルが上がったこの場において文月はやれやれと息をついて肩をすくめ、周囲の護衛へアイコンタクトを取った…その瞬間空気が異様な息苦しさを増した気がする。
やり取りする機密レベルを一段階上げる事を了承せざるを得ない事を了解したSP達は隔絶区間を用意した…万一の場合は内部の者であろうと軟禁する構えだ。
「ふむ、用意はできたようね。それでは始めましょうかこの度の「神話」の始まりの物語を。もっとも貴女はその先見の力であらかじめ予習してあるはずだけど、いいかしら?」
文月は何が、とは問わず同意を得られることを確認した。
今日香もどういうことか、とは口に出さず了承の意を返した…そう、これから話されるのは「人間の”天使”化の本質」と「能力者の本来の役目」に違いない筈である。
そしてそれを聞いた事によって自分にどのような責務が科されるかも当然わかっている。
今日香はそれらを承知の上でシナリオが展開する事を許容した…その応答がこの場の神話領域の稼動が正式に承認された証となり、因果の歯車は回りだした。
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