第8話幻影の城、事実の帳
夢と幻想は願望の種…現実という土壌に根付き理想という花を育てる。
それはある種の魔導書に共通するテーマのひとつらしい。
その発想から成された領域には時間による必衰の理は通用せず、理外の存在も当たり前のように日常を送っているのだ。
それゆえなのかそこへ踏み込んだ者は例外なくその領域の住人となり、再び現実へ戻る事はできない様である…領域の境で実際に目の前でデータの塊となって霧散した友人を見てしまった者はそれ以来意識を失い、隔離施設の中で目覚める事は無いであろう状態に陥ったそうだ。
…光合成でもできればまだ幸せだっただろうにな。
そう口に出しそうになった主治医が特別倫理感が低かったわけでは無い筈であった。
当事者が言葉通りの「植物状態」というべき存在になってしまった今となっては。
「関内君、関内君…いや桜木町君だったか?」
「関内で合ってますよ閣下。ボケたんならもっとわかりやすいやつにしてください。」
美咲は心底どうでもいい感情を抱かせる上司へ侮蔑を含んだ視線を突き刺す。そして現状報告を続ける事にした…があまり聞く側の反応は芳しくない。
えっと、どうしたものかな。もっと導入をわかりやすくしたほうがよかったか?
今になってそんなレベルの問題が出てくるはずが無いのだが、美咲は提言する場所を間違ったのではないかという疑いを抱き始める自分に寒気を催していた。
大丈夫、大丈夫。ここの閣下方は皆かつて前線を支えてきた凄腕のエージェント上がりで戦略兵器並みの存在…わざわざ戦術論理などの前提論を説明する必要も無い筈。
それなのにこの場の異様な場の空気は自分の意識を飲み込むことが必須と言わんばかりの粘度だ。
マズいなこれは…ここにきて私が人柱になる算段が組まれていたというならば、陣頭指揮を任された事自体が罠、いや計画通りだったということ。
手荒な真似だけで離脱できる面々ではないので事象改変レベルの出力で異能を振るうことになるが、手の内が元々把握されているならば懸念など無い…とりあえず眠ってもらおう。
美咲が集中力を高めて領域を広げようとしたその刹那、慈悲深い笑みを貼り付けていたこの場の面々から放たれた圧力は美咲の意識を容易く真っ白に塗りつぶした。
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