第7話論理の揺りかご、倫理の福音

天使は神に祈らない。

…その一点のみが彼女の知りうる真実であり続けた。

許容も拒絶もまるで意味は無く、あらかじめ決められた正しさを粛々とこなすだけの機械人形。

それが「御使い」と呼ばれて尊ばれる存在に対しての偽らざる認識だった。

子供の頃だいぶ読み込んだ聖典にはあまりにも神々しく描かれていた善の象徴。

「それ」に焼き払われた郷里と思い出は決して戻らないもの…現実という言葉の意味を胸に焼き付けられたその日以前の記憶はすでに無い。

それでも教会に忠誠を誓う道を選んだのは正義や善という言葉の意味を確かめるだけに由来しない。

そう、せめてどれほどの論理が世界を動かしているのか知らなければならなかった…

いつも夢に描いていた未来を焼き焦がした対価として。


「…小石川!聞いているのか小石川!」

彩河は教師の呼びかけにまるで応じずに空の観測をし続ける…今更高校に通うというのも殊更ダルいものだな。率直な感想だけが脳裏に流れるのを感じる。

こんな事ならあの斎木のお嬢様に口利きをしてもらってあの私立のお嬢様校に編入させてもらうべきだったか。

でもあんな淑女然とした制服は私には着こなせまいな…

彩河の意識がこの場に戻ってくる可能性が無いことは誰が見ても明らかであった。

その様子を見て教師は憤慨を通り越して掴み掛からんとするほどの怒気を発していたのだが、それを発散しようとするほど理性が飛んではいなかったらしく忌々しげな視線を突き刺した後、授業を再開した。

それを視界の端で確認した彩河はたった今黙認された自由を使って放課後の予定を組み始める。

この街のベイエリアは有名な観光地が密集しており、お洒落なオフタイムを過ごすのにぴったりなのである…だから生活圏内のこの高校を選んだが人間関係ガチャは爆死の様だ。

うむ、しょうがないね不都合の受容も娯楽の内だしね?

彩河は適当に自分をなだめると本格的に空想に浸り始めた…そこから生まれるライフプランがこれからの騒乱の元凶となる危険性を自覚しないままに。

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