第6話幻想の閃き、夢想の煌めき
好奇心猫を殺す。
絶対的カリスマ主導のトップダウン管理が過剰に神聖視されていた時代の言葉だ。
世の中の矛盾も歪みも全ては問題なく包み隠され、現実という名の共有認識は永らく不可侵の神話として人々の日常を支配していたのだ。
そしてその大前提あってこそ現状を打ち倒そうとする事にモチベーションが上がったものである。
おっとこの先が本当に聞きたいかね?お嬢さん。
…老人はそこまでを熱を帯びて語った後、タバコをふかして遠い目をして虚空を見つめる。
語り部が一息ついたことにほっとしつつもさらなる現実譚があと数時間続くだろうと覚悟した彼女は出されていたお茶請けに手を伸ばして長期戦に備えた。
まさか今の時代にレッドオーシャン内生存論が必要になるなど誰も思っていなかっただろう…このツテを教えてくれた同僚には後でなにかしらのお礼を考えておこう。運だけではチャンスは回ってこないものだ。
そして彼女は恍惚とした表情で神話を護っていた時代の事を語り始めた老人の話の世界へ飛び込んでいった。
「それで今回の事案の為のキャストは決まったわけ?」
アイギスは積もり積もった苛立ちを懸命に抑えつけて秘書の話の先を促した。しかし弱りきった様子の秘書はその言葉に対する回答を持っていないことは明らかで、彼女に選べる選択肢は存在していなかった。
むしろこの場で卒倒するのがベストな対応であったかもしれない。
数瞬回答を期待したアイギスだったが、これ以上の茶番を見るのは許容できないのを自認して彼女に渋々退席を促した。
命からがらといった感じで退散していった秘書を頭痛を抑えながら見送った後、その顛末を始終見ていた来客の対応に移ることにする…その来客は穏やかな笑みでアイギスに言葉をかけてきた。
「あんまり身の回りに過度な重責を振りまくのは感心しないわよ?ヴィッツクラフト。」
「ヨハネス…貴様が当代のカバラのセフィラであっても従属する義務は私には無い。それを覚えておくことだな。」
今日はアリステイルの主として呼び出したはず…とツッコミを入れる事はしないヨハネスであったが、
彼女のお決まりの時勢の挨拶だろうと思い穏やかにスルーすることにした…時間は有限で貴重なものだ。恣意的解釈合戦によるマウントプレイに費やす贅沢は好きではない。話題をこちらから振ってあげよう。
そう考えてヨハネスは童女のような口調で目の前の「お得意様」へ話を始める。
「今回評議会で通すべき議題は世界秩序の維持を揺るがすレベルの話よ。下手を打てば貴女の責任問題として弾劾されることまでは覚悟しておくべきね?」
「件の”ボーダーライン”、超越境界点の話か…にわかには信じがたいがそれも現実として受け入れねばなるまいな。」
そこまで確認してアイギスは目の前の「取引先」の嬉しそうな笑顔に改めて憎悪をつのらせた。
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