第3話灼かれた野心と願望組成

「”幸せな結末”…?確かにあるに越した事はないが、エンディング後の事はキッチリ計画を組んでおくんだぞ。」彼女はそう言い残して前線を後にした。

シンデレラのお后修行とか公務回りに特段興味は持てないけれどハッピーエンドの後にも人生はある。

英雄譚なら悲劇の没落劇で締めればいいが、人々の日常を描いた物語にその手は通用しない。

どこまでも日々の戦いの準備とコミュニティの存在理由を生産し続けなければならないのは”脚本家”や”シナリオライター”の宿命である。

そう、例え自分が倒れたとしても命脈を継ぐ為のコネクション基盤は生かし続けねばならない…自分や仲間達の歩んできた道が無駄では無かったと自認する、ただそれだけの為に。


「…この”お気持ち表明文”をわざわざこの場で出した事にはきちんと納得できる理由があるのでしょうな?ミス三条。」

意識と知覚器官そのものを凍結するようなこの場の空気にちゃんと酸素は含まれているのかどうかは怪しいところであった…それにしても息が詰まる事この上ない。

この議場に巣くった魑魅魍魎共は己の身をも灼きそうな野心を隠そうともせず、隙あらば朱鷺子の意識を丸呑みにしようと舌をちらつかせていた。

それでも困った状況だとは考えない事にする。連中の正体が晒されている今こそ楔を打ち込める決定的チャンスなのだから。

この状況を誘ったのも今までの策がはまった事の証…トロイの木馬程の図体は無くとも戦力は確保してある。生贄の役を買って出たのも前々からの布石を生かすためのシナリオのひとつだ。

そしてこの刹那の間にお偉方の嗜虐心は熱せられて暴発寸前である…いつ朱鷺子の意思を従属させに来るか算段を組んでいる今こそこれまで積んであったアドバンテージが活かせる局面である。

そこで朱鷺子は心理的間合いを詰めながら自分のターンを始めることにした…流麗な言葉が議場に響き始める。

「そうですね…あなた方の思い描いたシナリオ展開が初等部の学級会ですら通じないという根拠を今から説明して差し上げますわ。」

その声は審判の日の審問官を思わせる呪術的響きを持ってこの場を席巻し始めた。

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