第2話思考の夢想、理想の幻像

片っ端から必須要素を盛り込んでも理想像が組みあがらないのは珍しいことではない。

元々到達していない領域を想像して組み立てるのが「理想像」であるからだ。

遥か昔の「創設者」はそう声高に叫んで奮起を促したそうだ。

しかし、そもそも辿りつきたい理想やその原型がはっきりしているのならば、後は道と手段を探す段階であるだろう…それでも「導きのままに歩を進めれば必ず到達できる」などという話にどれだけの信憑性があるのかは別の話だし、好みの未来を選べる手札に恵まれた者に限った”救い”にどれほどの存在意義があるのかははなはだ疑問だ。

…しかし目の前の”救い”に価値を見出せる者が目の前の道を見つけられるのは世の常なのかもしれない。

例えその実体が蜃気楼のような砂の城だったとしても。


「自分の手札だけで”勝利条件”が満たせるのが仕様なら誰も苦労なんてしないって話よ?」

…”意識高い系”の言葉が好きな彼女の話は今日も周波数が高めである。

ルシオラは盟友の語る私見論を右から左へ聞き流しつつ考える。

この広大なルォノヴァーラ家の敷地は意識と自我を縛る特殊な結界が何重にも張ってある異界であるため、万が一屋敷に辿りつく者がいてもその者は赤子以下の木偶人形となるのが必定である。

そしてそれらは滞りなく使用人達が排除して異界の糧とする流れだ。

なのでルシオラや彼女の姉であるレイチェルにお目通りできるのは余程の超越者であるか神に近い格を持つ同族ぐらいのものだ。

その条件を満たせる者に退屈をもたらす者などいないと思っていたが…世界はそこまで単純にはできていないか。

ルシオラは自分の為だけにブレンドされたハーブティーを一口含んで余韻に浸る。

この私に「例外」などという言葉を感じさせる目の前の彼女こそ”特別”なのかもしれないな。

いまだに話を終わらせる様子のない盟友の姿に懐かしきかつての日常を投影したルシオラは優しげにそっと目を細めた。

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