だから僕は神様を信じない

星座 カナメ

18の日、僕は旅に出た

――12の国を巻き込んだ大戦から50年が経過していた。

戦争により焦土と化した土地も若い芽が生え、傷痕を癒すかのように生え茂っていた。

 車窓から見える故郷の景色は僕が生まれた時から変わらない。大戦中は中立国であり、大陸の端であった僕の故郷―モライデンは内陸に比べ被害はさほど甚大ではなかったそうだ。だが、戦火というものは一度広がってしまえば止まることを知らない。いくら中立国といえども、立地上被害を受けることは必然であった。

 心地の良い光が僕の額を照らした。どうやら朝日が昇ったようだ。昨日から準備や緊張でろくに睡眠時間が取れなかった僕の睡眠欲は限界に達しようとしていた。

―視界が徐々にぼやけてゆく。

薄れゆく意識の中でふと最愛の人の名を言う。

「ステラ・・・」

僕の意識は闇に消えた。


――・・さん・・・ゃくさん・・・・・。

「お客さん、ついたぞ」

 呼び起こす声に導かれ、睡眠から目を覚ました。窓の外にいたのは先ほどまでこの馬車の御者であった人である。

「あんた、あの船に乗るんだろ? アデスルシアまでなにしにいくんだい?」

 まだ覚醒しきっていない意識の中、御者は質問をしてきた。

「んーと・・・・冒険・・かな」

 徐々に覚醒していく意識、それと同時に自分の目的を思い出させてくれる。

 冒険というのはあながち間違いではない。主の目的は僕の幼馴染―ステラを探す旅であるが、幼いころから故郷であるモライデンを出たことがない僕にとっては見知らぬ国へ行くのは冒険である。

「ふーん、あんた名前は?」

 事情を察してくれたのかあまり話に深入りはせずに御者は質問を続けてきた。

「ジェレマイア、ジェレマイア・アルブレヒトです」

「ジェレマイア・・・・どこかで聞いたことのある名前だな」

「まあ、珍しい名前ではないですからね・・・・おっと、船に遅れてしまうのでそれでは失礼します」

 御者へここまでの料金を手渡し、僕は足早に港のほうへ向かう。港のほうへ近づくにつれ段々と人の声で騒がしくなっていき、故郷を離れるんだという実感が現実味を帯びてきた。そして前方に見えてきた巨大な物体・・・・今日搭乗する船―アルゴリクス号である。モライデン最大の大きさを誇る大型客船であり、海の女神・リアーナをあしらった金の装飾品がふんだんにつけられている。それはこの国の発展具合を象徴していた。

 ふと左腕につけている腕時計を見ると針は12を周った頃であった。船の出発は13時。どこかで時間を潰せまいかと悩んでいると、ふと港の道沿いに建てられた小さな喫茶店に目が留まった。―ルノー喫茶。まさしく喫茶店である。都会のコーヒーは美味しいと評判だったので僕も飲んでみようと足を運んだ。

 「いらっしゃいませ!」

 音色が高く、よく通る声がカウンターから聞こえ、そちらへ目を向ける。

茶髪でグレーの目をした少女と目が合った。年は同じくらいである。目が合った瞬間彼女は小さく微笑んだ。僕は彼女の近くのカウンター席へ座ることにした。

「ご注文はどうしましょう?」

メニュー表をみる。やはり喫茶店なのでコーヒーには様々な種類があり、軽食も多い。

「おすすめのコーヒーをください」

 田舎者の僕にとってコーヒーの種類などわかるわけもなく、選別は彼女に一任す

る。そもそも僕はコーヒーを飲んだことがなかったのである。

「えーとっ・・・・わかりました! 任せてください」

 彼女は少し悩んだ素振りを見せた後、すぐにまた小さく微笑んだ。そのまま彼女は右手を胸元まであげ、人差し指で大きな円をゆったりと描く。

―魔法である。

 棚に置いてあった白いコーヒーカップは揺れだし、次第に浮いてゆく。彼女のゆったりとした指の動作を見ているとやかんから水の沸騰した音がした。今さら説明するまでもないが、これも魔法である。

 この世界に魔法があるのは周知の事実で、その中には五大元素と呼ばれるものがある。「地」「水」「火」「風」「空」の五つで、五大と呼ばれる。大地のようにすべてを支える地大。すべてに潤いを与える水大。すべてを浄化をさせる火大。すべてを養う風大。すべてを包み込む空大。五大元素にはすべて役割がある。

そして先ほど彼女が行ったのは風と火元素の魔法である。風は簡単に言うと物体を浮かせたり、癒しの魔法を扱うことができる。そして自身の魔力量や相性によって効果は変わってくる。例えば、魔力量が多くても風元素の適正がなければ十分な効果を発揮できない。火に関しても同様で、火は簡単に火を出せたり、熱を生じさせることができる。魔法に関する教養を受けていない人物でも自然と魔法を生じさせることができるが、魔法というものは単一元素では効果は薄い。複合させることで効果を抜群に増幅させることができるのである。先の戦争でも主に武器として扱われたのは魔法であり、その扱いやすさは測りしれない。ほかの元素についてまた機会があれば話すとしよう。







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