42話 陽菜乃と真理亜

 閉められたカーテンの隙間からオレンジ色の光が差し込み、机の上の写真を照らす。

 あそこには無邪気だった頃の私たちが写っている。

 に戻れたら、どれだけ幸せだろう。そう、自分の中で何度後悔したことだろう。

 

 目の前にはなりたかった私。


 ゆうくんの隣にいられる唯一の存在。


「突然ごめんなさいね。本当はもうちょっと早くに話したかったんだけど、知らないところで急展開だったりするものだから」


 クスリと笑いながら柘植さんは私を見据えた。


「宮園さん、ホントは光輝くんと付き合ってないでしょ? アナタもゆーとのこと……大好き、なのよね?」


「……えっ?」


 ゆうくんに聞いてきたわけじゃないのかな?


「ああ、ごめんなさいね。ゆーとも必要ないことは話してくれなかったから。これは前々から疑ってたことなんだけどね? アナタはあからさまにゆーとへの好意を隠さないし、光輝くんが彼女を作るなんて思えなくてね」


 なぜか遠い目で話す柘植さん。


「あ、幼馴染、だから?」


「……そんなとこね。付き合いは長いから光輝くんの好みというか、性癖? みたいなものは、まあ、ね?」


 まあ、おおっぴらに話せる内容じゃないよね。


「こうくんとは、お友達、かな? 最初っからね」


「やっぱりね。アナタがどうしてゆーとについてまで光輝くんと付き合ってるフリをしていたのかは知らないけど、それって側から見れば浮気よね? 光輝くんと付き合っているのに、ゆーとにちょっかい出して。嫌われるためってことなら理解できるけど違うのよね?」


「浮気? そう、か。付き合ってないのは当人にしかわからないから、ね。ゆうくんからしてみると……浮気女に、なるんだ」


 ゆうくんの一番嫌いな、人種。


 好きにならないようにを通り越して、嫌われるようなことをしてたんだ。


「自覚なしだったのね。ゆーと自身、戸惑ってるし、傷ついてるわ。アナタには感謝してるみたいだし。身の回りのことをしてくれただけじゃなく、そばにいてくれたことに対してね」


 そっか、ゆうくんを傷つけちゃってたんだ。だから柘植さんは私に文句を言いにきたのね。


「ごめん、なさい」


 私はベッドに座りながら頭を下げた。


「謝る相手は私じゃないわ」


「うん。でも、もうゆうくんはもう私とは会ってくれない———」

「アナタ、ゆーとと何年付き合ってるの? ゆーとがアナタと会わないことがあるなら、それはアナタに誠意が見られない時だけよ?」


 柘植さんの言葉が私の心に突き刺さった。


 私だけがゆうくんの特別だと思っていた。


 幼馴染として過ごした時間は誰よりも長いんだもん。


 でも、柘植さんはきっとそんな時間、関係ないほどゆうくんのことを想い、理解しているんだ。


「……まだ、間に合うかな?」


「アナタにその気があるなら、ね? ホントは敵に塩を送るなんてことしたくないんだけど、協力してあげるわ」


「……えっ?」


 一瞬、彼女の言っていることが理解できなかった。私に協力?


「ああ。勘違いしないでね? 付き合えるように協力するわけじゃないわよ? ゆーとの隣は誰にも譲る気ないから。ただ、傷ついたゆーとを放っておけないの。私には癒すことしかできないから、傷ついたアナタが直接治してあげて?」


「治す?」


「そう。それはアナタにしかできないから。まずは信頼を回復しないと。……そうね。まずは私に料理を教えてくれないかしら? ゆーとのお家でね」


 それは、彼女が示してくれた一筋の光だった。

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