24話 騒ぎの中心
最近、俺の周りが騒がしくなってきたような気がする。
2年になってから昼メシはキヨ、みっちゃん、マリアと食べることがほとんどだったが、そこに光輝とひなも加わるようになった。
カップルなんだから2人で食えよと言いたいところだが、言っても聞かないだろうな〜。
それに加えて、最近ではサッカー部のZA•ZAコンビが乱入してくることもしばしば。アネゴに至っては自宅にまでくるようになった。
久しぶりに我が家に来たアネゴは、リビングに入るなり深々と頭を下げてきた。
「
「それはそれでレアだな」
俺に会えなくて親父に会うってどんな確率だよ? 毎日のように入り浸ってる、ひなだって会わないぞ?
「ん。で、お父さんとケンカになって二度と来るなって言われた」
「なのに来たんだ」
「ん。どうせ私のことはわからない」
「あ〜。納得」
「だから開き直って
「うん、アネゴ。さっさと帰ってくれ」
訳の分からないことを口走りだしたアネゴの背中を押して玄関に押しやる。
「むっ! そんなに照れなくてもいい。今日はちゃんと大人っぽいの着けてきた。勉強もいっぱいしてきたから
制服のミニスカートをたくし上げて、白い太ももが露になったところでアネゴの手をがっしりと掴んだ。
「いつからそんな痴女になった?」
「ん、心配しなくても
「あ〜! とりあえずメシ! メシの準備をしよう」
思い立ったらとことん突っ走るアネゴ。
これで学校では冷静沈着で通ってるのが謎で仕方ない。
「ほれっ、できたぞ。それ食ったら送ってってやるからさっさと食おうぜ」
とりあえず冷蔵庫に入っていた明太子を使ってパスタを作った。
「むうっ。
なぜか悔しそうにパスタを睨みつけるアネゴ。
「アネゴはお勉強はできるのに女子力というか、生活力なさ過ぎだろ」
「ん。私が働いて
俺は将来ヒモになるのか? まあそれは楽かもしれないがそこまで家事ができるわけでもないしなあ。
「へいへい。しっかり働いてくれ」
「むぅ。扱いが雑。やはり私の立場をはっきりさせるべき」
アネゴがシャツのボタンを上から一つずつ外そうとするので、その手を掴んで止めた。
「はいはい。なんでもかんでも籠絡で片付けようとするなよ。一応隠れ美少女で通ってるんだから、もう少し自分を大切にしろよ?」
「ん? 大切にしてるからこその行動。ゾノには負けない?」
「ゾノ? ああ、ひなのことか。なんでそこでひなが出てくるんだよ?」
俺の言葉が意外だったのか、アネゴは小首を傾げて思案顔だ。
「ん。確かにゾノは沢村の彼女。でも……」
「でも?」
「ん、これは私にはわからない。たぶん
「あ、愛? そんな訳ないだろ。確かに甲斐甲斐しくお世話してくれてるけど、それは俺の境遇に同情してくれてるだけで、単にひながいいヤツってだけのことだと思うぞ」
確かにひなは俺に対して彼女であるかのように振る舞うこともある。でもそれは生活空間の中でのことであって、言ってしまえば
「ん。まあ、ゾノのことは置いておく。
「ん?」
「黒のスケスケと、赤の紐パンとどっちがいい?」
チラリと胸元を開きながら上目遣いをしてくるアネゴ。
「だからっ! そういうのはいらないっての!」
♢♢♢♢♢
「あははは、みっちゃんがかっこよすぎるからだよ〜」
昼休み、いつもの光景のはずなのにマリアの笑顔が冴えない。
理由はやっぱり、先日の
結局、家まで着いてくることはなかったみたいだが、マリアは終始緊張していた。
「だ、大丈夫だから。あんたも必要以上に警戒しないでね」
あまり大事にしたくない気持ちはわかるが何かあってからでは遅い。
「みっちゃん、ちょっと2人だけで話がしたいんだけど」
弁当を食べ終わったみっちゃんを捕まえて相談しようとしたところ、クラス全体から注目を集めることになってしまった。
「こ、告白か? とうとう大穴の柏原がいくのか?」
「ないだろ! あいつは名前どおり
なんか、穴馬だとか友人キャラだとか好き勝手言われてるなあ。
「ゆ、ゆうくん? ゆうくんじゃ、さき兄さんには勝てないと思うよ?」
焦ったような表情のひなが耳元で囁いてくる。
「いや、告白じゃねぇし。ただの相談だから」
勘違いしているクラスメイトにも聞こえるように、あえて大きめに言っておいた。
♢♢♢♢♢
「え? 真理亜にストーカー? それは確かなのかい?」
人気のない校舎裏のベンチで、みっちゃんにマリアのことを相談した。
「ああ、間違いない。犯人もわかってる。バイトの時は俺が一緒にいるからいいんだけど、それ以外の時が心配でさ。ほんとは光輝あたりに相談したいところなんだけど、彼女いるやつに他の女の相談ってのもどうかって思ってさ」
きっと相談すれば光輝は力を貸してくれるだろう。でもその時、ひなはあまりいい感情を抱かないだろう?
「なるほど。まあ、その心配はないとは思うが、
「いや、助かるんだけど、いくら強いからと言って、みっちゃんだって女の子なんだから、何かあったらさぁ」
「ふむ?
「あ〜、なるほど。たぶん美人には気後れするタイプだわ。マリアのことかわいい、かわいいって言ってたからな」
「じゃあ、たぶん大丈夫だろう。
自信に満ちた目で見つめ返してくるみっちゃん。なるべく危ない橋は渡らないでもらいたいんだけど。
「わかってるとは思うけど……」
「大丈夫さ、安全第一。セーフティファースト。まずは逃げることを選択するさ」
みっちゃんは強い。精神的にも技術的にも。
それでも絶対なんてあり得ない。マリアを守るためにみっちゃんが傷ついてしまっては本末転倒だ。
♢♢♢♢♢
夏の訪れが近いてきたことも影響してか、バイト中の新陳代謝がハンパない。
「あははは。暑くなってきたよね〜。でも見てごらん。マリアちゃんみたいな美少女になると気合いでなんとかするものよ」
麺場で汗を拭っていた俺に、奥さんはホールを見ながら話しかけてきた。
ホールのマリアはいつものようにテキパキと動き回っているが、額に汗をかいている様子はない。
「見た? 美少女だけにある特殊なスキルよ」
「マジっすか」
あわよくば俺にもそのスキルの一端でも使えればと思ったが、美少女だけのユニークスキルならば仕方がない。
「ん? どうかした?」
丼を下げにきたマリアが、尊敬の眼差しを向ける俺に気づいたらしい。
「いや、この暑さの中汗ひとつかいてないからスゲーなって思って」
「ああ、あんたすごい汗ね。そりゃそっちに比べれば火も使ってなければクーラーも効いてるしね」
俺の首にかけてあるタオルを掴み、額の汗を拭ってくれたマリア。
「頑張ってね」
小さく手を振りながらホールに戻って行った。
「あら〜♪ いつの間にかラブラブじゃない?」
後ろから揶揄うような奥さんの声にハッとした俺は、ジト目で奥さんに抗議した。
「騙しましたね?」
「柏原くんって変なところで真面目よね? そんなスキルがあれば私にだってあるはずじゃない」
クスクスと笑う奥さんの額には汗が浮かび上がっている。
「少女って歳でもないくせに」
ボソッと呟いた俺に向けられたのは、奥さんの憎悪の眼差し。
バイトが終わりに、いつものように賄いを食べていると、テーブルの上に置かれていたマリアのスマホがブルブルと震えた。
「あ、ちょっと出てくるね」
「おい、ちょっと」
店舗の照明も消されているので、外は暗くなっている。静止する俺の声は「もしもし?」と言うマリアの声にかき消された。
焦った俺は急いでうどんをかき込んで裏口から外に出ると、そこにはマリアのスマホが落ちていた。
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