17話 これが友人さ
3点目はアッサリと決まった。
相手のキックオフでのリスタート。ホイッスルと同時に前線からプレッシャーをかけていった。
相手が動揺しているのは明確。パサーにプレッシャーをかけながらスペースを埋めてパスコースを潰す。
「光輝!」
慌てた相手はプレッシャーを逃れるために後ろ後ろへと逃げていき、GKの光輝にまで回ってきてしまった。
「なっ!」
死角から近づいていたフォワードに気づかなかったディフェンダーが不用意に出したパスはアッサリとカットされ、そのままドリブルで光輝までも抜き去りゴール。
『ピッピッー』
「
サポーターからの声援に軽く頭を下げて応える零士。
ウチのエースストライカー
俺と同じ学年だが、去年からレギュラーとして活躍をしている。
185cmの長身ながら足元にも定評がある。
『でかくて、上手くて、速い』
各年代の代表にも選ばれ続けているスーパーエースはどこかのルーキーと違い謙虚だ。
トップチームにも何度も呼ばれているのだが、実績のある外国人で補強したチームでスタメンを張るのは容易ではない。
「ナイスシュ、レイ」
「んっ」
コツンと拳を合わせて祝福すると、さっさとポジションに戻っていった。
「流れ大事にするぞ!」
修さんの声が響き、先程同様に前線からプレッシャーをかけていく。
「慌てるな! 基本を忘れるな! パスコース確保!」
星陵のキャプテンが浮き足立ったチームに落ち着きを促すが、ウチの流れに飲み込まれている状況は変わらない。
「前半あと5分だ! 焦るな!」
星陵ベンチから松先が声をかける。
残り5分。現状維持でハーフタイムを使い流れを変えたい松先は無理に攻めさせずに守りを固める指示を出した。
「じゃあ、遠慮なくいきますか」
ウチはコンパクトな陣形のまま、相手陣内でポゼッションを高めていく。
相手は全員が自陣に引いて俺たちの攻撃を防いでいる。
「つりだせ! 遠目から積極的にいくぞ!」
ゴール前の分厚い壁を無視するかのように遠目からゴールを目狙う。
コーナーにでもなれば体格差で勝るウチの方が有利だ。
「キーパー!」
レイの狙い澄ましたシュートを光輝が横っ飛びでコースを逸らしてコーナーへと逃げた。
際どいコースだったけどうまく指先に当てたな。
右サイドからのコーナーキック。
キッカーは右利きの寿さんなので、ゴールから逃げる形のボールに対応することになる。
ニアサイドには修さん、長身組の俺はレイと相方の
「マーク確認しろ。ファーサイド散るぞ!」
光輝からの指示で、星陵サイドは個々のマーカーのチェックをする。
「9番!」
「3番任せろ!」
「4番OK」
俺にはキヨがピッタリとくっついてきた。
「仙台戦のようにはいかないぜ?」
右手で俺の身体を触りながらニヤリと笑う。
うん、キモい。
ゴール前でポジション取りが激しくなる中、キッカーの寿さんの右手が上がり俺はゆっくりとゴールから離れ、助走とともに大回りでニアサイドに走り込む。
シュート性のグラウンダーのボールがゴール前に飛んできた。
俺の動きに気づいてない光輝が横っ飛びでボールを抑えに行くと同時に、俺は頭からニアサイドに飛び込んだ。
「
ポスト手前で合わせた俺に気づいた光輝は、懸命に足を伸ばすが身体の流れに逆らえず、ボールは光輝の足をすり抜けてゴールに突き刺さった。
『ピッピッー』
ゴールとともに前半終了。悔しさを露わにした光輝が睨みつけてきた。
♢♢♢♢♢
「ゆうちゃん、ナイッシュー!」
「
左右からの絶叫にハッとする。
ヤバい! 完全に見惚れてた。
前半を終えて4対0。たしかウチのサッカー部って去年の県大会でベスト8まで残ってなかったかな? 選手の入れ替わりはあっただろうけど、そんなに弱くなった?
幼馴染の光輝くんの試合を観るのは中学以来。もちろん上手くなってると思うけど、プロのユースチームとこんなに差があるの?
試合中、隣の匠は「スゲエ」「ヤベェ」「ウメェ」しか言わなかった。経験者から見てもステノクは強いんだ。
「どうだい匠。まずは前半の感想を聞かせてくれないかい?」
満足気な表情のみっちゃんが匠に視線を送る。その視線! 次は私にちょうだい!
「あ、っと、凄かったッス。
淡々と語る匠に、みっちゃんはウンウンと頷きながら応えた。
「ゆうちゃんはね、小さい頃からサッカーばっかり観てたのよ。ちっちゃいゆうちゃんが真剣な顔で食い入るようにジッと。ふふっ、可愛かったわ」
その櫻さんの表情の方がかわいいと思います。
「ああ。小学校の頃から戦術マニアでしたからね。この監督はこういう戦術が得意とか。で、自分なりの攻略法を考えて。「みっちゃん、クロップのリヴァプールに勝つにはさぁ」って。ああ、思い出すだけでも愛おしい」
昔を思い出しながらウットリとした表情を浮かべるみっちゃんに、スマホを構えて撮影を———っと、ダメダメ。
「日々サッカー漬けってことッスか?」
「うん? オンオフはしっかりしてるさ。けど、ことサッカーに関しては誠実に向き合ってる。それが今の
みっちゃんの言葉に、匠は無言で頷いた。
「で、真理亜はどうだった? 食い入るように観てたのを私は知ってるよ?」
「ほぇ? みっ、見惚れてなんていないからっ! いつもと別人みたいで真剣な表情にドキっとしたなんてないからっ!」
突然話を振られたこともあり、ワタワタと答えると櫻さんにギュッと抱きしめられた。
幸せ
「あらっ! まりあちゃんもゆうちゃんの虜になっちゃったのかしら? う〜ん、これは陽菜乃もうかうかしてれないわね。こんなにかわいいまりあちゃんが相手だと、ゆうちゃんもほっとけないもの」
ん? んんん? 櫻さんに抱きしめられてかわいいって言ってもらえたのはうれしいけど、どういうこと? 櫻さん、
「あははは。櫻さん、真理亜はモテますからね。それに比べて
私はみっちゃんがいればいいの。うん。
みっちゃんはそれも見越してオチないようにって言ったのかな? サッカーをしてなくてもアイツは、
意識は……ね?
「あっ、ハーフタイム終わったわよ。ゆうちゃ〜ん! あれっ? いないわね。まさか交代?」
ハーフタイムが終わりステノクの選手がグラウンドに出てきたが、そこに背番号4番の姿はなかった。
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