第13話 デートの約束

「希沙良」

「あれ? 侑木君」



侑木家の前を通り掛けた時、名前を呼ばれ足を止めた。



「今日は何? つーか学校もクラス一緒なのに学校で済ませれば良いじゃん! わざわざ待ちぶせしなくても…あっ! それとも私に会いたい為に待ちぶせしてるの?」


「それはないっ!」


「だろうね。で? 」

「こうでもしなきゃ学校じゃお嬢様がうるさいから」

「あー……お嬢様、あんたにベタベタだもんね? 接着剤みたいに」

「磁石だろう?」

「あー、その例えもありだね。で? 用件は何?」


「今度デートしねぇ?」

「はい? 今、デートって言った!?」

「言った!」


「カップルでも何でもない私達がデート!? いやいや、お嬢様誘えば良いじゃん! 絶対誘ったら地球の果て迄、いや……宇宙の果て迄、飛んで行くよ。その後、戻って来るかは知らないけど」


「ぷっ……ハハハ絶対有り得るな。だけど彼女を誘う理由はねーな」

「許嫁なのに?」


「関係ねーし。いや、いつもお世話になっているからって、そのお礼に出かけて来いって周囲がうるさくて」

「あー、別に良いのに」


「だとしてもアイツらの事だしまた言って来るだろうし」


「うーん……じゃあ何処に行く? 遊園地? 映画館? 水族館? それとも他の所にする? 私デートした試しなくて」


「えっ? いや1回位はあるだろう?」

「ないよ。だって彼氏いた事ないから」


「………………」


「そういう自分はあるの? まあモテモテだったからあるか……ちなみにオーケストラとか、そういうデートは辞めてね」


「いや……それは…俺もそういうの向いてねーかも……」

「うん、だろうね! 寝てそうだもんね。あんた」

「なっ! てめぇ!」

「ハハハ……」


「あー分かった! 分かりました! もうデート行かね!」


「やったー! じゃあいつも通りベビーシッターという事で!」




グイッとヘッドロックをする侑木君。



「きゃあっ! か弱い女子に暴力反対っ!」

「何がか弱い女子だよ! マジひねくれてんな!」

「やだ!今頃気付いた? くされ縁に近い私達だけど、私の性格、侑木君知るわけないでしょう?」

「お前、マジムカつく!」



私達は騒ぐ。






馬鹿しあって


冗談言い合って


この時間がとても楽しくて


居心地良かった




――― そして ―――




この時はまだ自分の想いに


気付いていなかった


彼への想いに ―――





そして日曜日。



映画館で待ち合わせという事で待機中。




「つーか…本当に今までデートなんてした試しないんだけど…私、おかしくないかな? つーか…私、何ドキドキしてんだろう? いつもの顔馴染みが相手なんだし」





いつも顔を合わせているのに


改めて待ち合わせして


出掛けるデート



ドキドキする胸のトキメキ


今までにない想い


もしかして……?




――― なーんて ―――




でも特別な日になりそうな気がした


いつもの日曜日


いつもの休日


今日は


あなたと出掛ける


特別な日 ――――






「おかしいなぁ~。やっぱり待ち合わせなんてするべきじゃなかった気がする」





待ち合わせから


30分 ―――




「アイツってルーズ? まあ30分はありそうなパターンだし、まあ我慢出来るかな? 私の中で」





待ち合わせから


1時間 ―――




「おい、おい! 1時間って有り得ない! 何かあった? そうだとしたら……連絡……あっ……でも……私達…連絡先交換してなかったんだ……どうしよう?」






待ち合わせから


2時間 ――――





「ちょっと!! 何なのアイツ騙したわけっ!? からかってんの!?」


「…………(怒)」


「もーっ! あったまきたっ! やっぱり待ち合わせなんてするべきじゃなかったよっ!」




私は帰る事にした。

空からは雨が降りだした。





「雨って……嘘!? マジ最悪……」



私は走って帰る。






待ってる時間


いつもより長く感じた待ち合わせ


ドキドキしながら


胸のトキメキを味わった時間(トキ)





――― でも ―――






アイツは……






私の前には…………






現れなかった…………







「……アイツの……家……」







雨の中…………







立ちすくむ…………







アイツの家の前…………










私はインターホンを押そうとした。



でも押せずに帰ろうとした、その時 ―――――






「優梨さん!?」




名前を呼ばれ振り向く私。




「……蓮歌……ちゃん……」


「ちょっと優梨さん、ずぶ濡れじゃないですかっ!? お兄ちゃんと一緒じゃなかったんですかぁっ!? お兄ちゃん、待ち合わせに間に合うように出て行きましたよ!」




≪嘘……出て行った……?≫

≪どういう事?≫

≪だけど……アイツは時間になっても現れなかったのに……≫



「……そうなんだ……」

「……私てっきりデート楽しんでいると思っていたのに……家で待ってて下さいっ! お兄ちゃんに連絡……」




携帯を取り出す蓮歌ちゃんの姿。

私は、蓮歌ちゃんの手を掴み止めた。




「ううん! きっとすれ違ったのかも? もしくは待ち合わせ場所を間違ったのとか? だから良いよ。大丈夫。平気だから。ごめんね。じゃあね」



私は走り去った。




「待って! 優梨さんっ!」




その日の夜 ―――





「……ただいま……」

「お兄ちゃんっ! 説明してっ!」

「えっ?」

「今日優梨さんと出掛けてないでしょう?」


「………………」


「どうして? ねえっ!」


「………………」


「……優梨さん……すっごい雨に濡れてたよっ!」



「えっ? アイツ家に来たのか?」


「来たよっ! 待ち合わせ場所に行った帰りだったんだと思う。その後、家の前で待っていたんだと思うよっ! すっごい手が冷たかったし……家で待っててって言ったけど……断って帰ったの! 」


「………………」


「ねえ……何があったの? どうして一緒じゃなかったの? ねえっ! お兄ちゃんっ!」


「………………」



「お兄ちゃんに連絡しようとしたけど止められて……自分が待ち合わせ場所間違ったのかもって……優梨さん……すっごい楽しみにしていたと思うよっ! おしゃれして、凄く可愛かったよっ!……それなのに……お兄ちゃんの馬鹿っ!」



「アイツが……あの女が俺達の邪魔したんだよ……俺だって……希沙良と……優梨と出掛けんの楽しみにしていたんだよっ!」


「……お兄ちゃん?」

「……お嬢様さえ来なきゃ……俺だって……」

「……まさか……」

「小田切 麗香……お嬢様だよ……」


「……そんな……」




まさかの人物が私達の仲を引き裂くように ―――




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