第12話 初詣

「なあ、希沙良」

「何?」



それは私がベビーシッターに行った日の事だった。



「初詣、一緒に行かね?」

「えっ!? 私と?」

「そっ! どうせ行く相手いねーんだろ?」

「悪かったなっ!」

「じゃあ良いよな? 希沙良 優梨さん」


「つーかさ、私じゃなくて彼女の方が良いんじゃないの?」

「彼女って誰?」

「小田切さん」


「あー……彼女はねぇ~論外」

「ろ、論外っ!? えっ? だって二人って許嫁でしょう?」

「許嫁だからとか、俺、そういうの縛られたくねーし」

「ふーん……じゃあ付き合ってあげる! でも」

「でも何だよ!」


「ドタキャンなしね!」

「ドタキャン!?」


「やりかねないから」

「あのなー」

「ともかくまた詳しく決まったら言って!」

「はいはい」




そして ――――




1月1日。初詣。



「ねえ、ねえ」

「何だよ!」

「カップルでも何でもない私達が初詣行くのっておかしくない!」

「良いじゃん!友達として行くの別に良くね?俺達しか真実知らねーし。周囲がどう思うか関係なくね?」


「あんたは、それで良いわけ私なんかと誤解されても」

「俺は別に気にしねーけど。そういうお前は、もしかして誤解されたら困る理由あんの?」

「いや別にないけど」


「だったら良くね? お前気にしすぎじゃねーの?」


「……つーか、お金持ちのボンボンも初詣に行くんだね」

「行くし! 年初めに行かなきゃいつ行くんだよ!定番だろう?」

「家族で行くイメージあるんだけど」

「行くなら時間ズラさなきゃ子供達が迷子になられても困るし。沢山の人混みから探すのは大変だし。一緒に行きたいけど何かあったら遅い」


「あー……そうかぁ~」



お賽銭箱の前に移動。



「ボンボンのくせに……5円って……」

「ご縁があります様にって事で5円なんだよ!」


「いやいや、もっと入れれば? 家族代表で来たんだからみんなの分してやりなよ~。でも、いくら入れても同じだろうと思うけど……何か自分自身に御利益あるのかな?」


「小さな幸せはあるだろう?」

「小さな幸せ…ねぇ~」



私達は、次に定番の御神籤(おみくじ)を引く。



「……えっ……? えっ!? ええええっ!!」

「今日に限って……」



ビクッ バッ

背後から声がし慌てて御神籤を隠す私。



「凶って……しかも元旦初日、年初めに凶っ!?」


「う、うるさいなっ!」


「うわっ! うわっ! うわっ! 不幸が移るっ! お前が賽銭箱の文句言ったからバチが当たったんじゃね?」


「そういう自分は何な訳?」

「俺? 勿論……だ・い・き・ち」



クジを見せ付ける様にするものの私に一瞬だけ見せた。




「嘘だ! まぐれだ! 偶然だっ!」



私は取り上げようとする。



「うわっ! 不幸が移るっ!」

「な、何よっ! 失礼な奴!」

「まあ、お前と違って日頃の行かないが良いから俺」


「……ムカつく! 結ぼう、結ぼう!……第一、お正月に御神籤に凶とかってありえない! つーか……凶って……お正月にあって良いもの?」



私はブツブツと文句を垂らしながら私は木に結ぶ事にした。


すると上に重ねる様に侑木君が自分の御神籤を結んだ。



ドキン



「侑木君……?」

「俺、大吉だし。少しでも良くなるんじゃのーの?」





日頃言い合ったり


喧嘩したりしている私達


時々見せる彼の優しさは


私の胸の奥のハート(心)が


小さくノックする




「さっ、帰ろうぜ」

「あ、うん」



グイッと私の手掴む侑木君。



ドキン

胸が高鳴る。



「凶だから迷子の仔猫にならない様に」




イタズラっぽく笑う侑木君。



「なっ……! 凶だからって迷子にならないし!」

「分かんねーじゃん!」

「もうマジムカつく!」



クスクス笑う侑木君。


私は侑木君に対し普段やられっぱなしもと思い




「侑木君」

「何?」

「迷子になったら探してね♪」

「……えっ?」

「まあ迷子にならない様に掴まえててくれてるから安心だよね?」


「………………」


「……侑木君?」




≪あれ?何か様子が……≫



ムニュともう片方の手で頬を摘ままれた。



「……いたい……」

「お前なぁ~……」

「何?」

「ムカつく!」

「どうして?」

「不意打ち過ぎんだよ!」


「………………」



≪もしかして……ドキッとでもした感じ?≫

≪顔赤い気もするけど……≫



摘ままれた頬を離す侑木君。




「いつもやられっぱなしだからさぁ~たまにはやり返さなきゃ」


「………………」



私達は騒ぐ中、帰るのだった。



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