第10話 お嬢様 VS 優梨
「希沙良さんっ! これ以上、彼に近付かないで下さる?」
小田切さんが私に言ってきた。
「えっ? 彼?」
「あなたが劉真君の所でベビーシッターをされている事は存知あげています。でも、今後、この私がベビーシッター致しますわ!」
「えっ!? お嬢様のあんたが?」
「なっ! し、失礼ですわね! 私だって子供は見れますわ! 将来の為です! 正直、目障りなんですの!」
「………………」
「あなたが劉真君のお屋敷を出入りしている事が、とても許せないんですの! だから、これ以上近付かないで下さい!」
そう言うと彼女は去って行った。
そして ―――
「劉真君」
「何でしょう?」
「今後、私が子供達の面倒見させでいただきますわね」
「えっ!? お嬢様のあなたに何が出来るんですか?」
「りゅ、劉真君まで希沙良さんと似たような事をおっしゃらないで下さい! と、とにかく私がベビーシッターを致しますわね」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って下さい! だって……」
「希沙良さんと交代致しましたわよ。希沙良さんから許可頂いていますから大丈夫ですわよ」
≪んなわけねぇだろう? アイツは子供好きで、子供もなついてんのに……≫
「………………」
そして、彼女・小田切さんが私の代理でベビーシッターをする事になり―――
「やーだーぁっ! 優梨お姉ちゃんがいーいっ!」
「弘太君、優梨お姉さんより私が良いでしょう?」
「いーやーだー」
走り去る弘太君の姿。
「どうしてですの?」
「急には受け入れられないと思いますけどっ!?」
「あ、えっと……」
「蓮歌ですっ!!」
「あ、そうそう。蓮歌さんでしたわね」
「その呼び方は辞めて貰って宜しいですか? お・嬢・様」
「……そう?」
「みんな優梨さんになついていたんです! それを今更、代理とかおかしい話です!」
「あんな一般の方に何が出来るって言うんですの? お嬢様、お坊っちゃまなら、それらしく教育すべきですわっ!」
「お言葉を返すようですが、お嬢様であるあなたに何が出来るのでしょうか?」
「まあっ! 蓮歌さんまで、劉真君と希沙良さんと同じ事を……?」
「あなたは許嫁だとしても、あなたがすべき事なのでしょうか?」
「……それは……」
「私達家族は、みんな優梨さんが大好きなんです! 優梨さんが来ると笑顔が絶えないし、子供達みんなが優梨さんにベッタリで、その時間だけは子供達みんなが優梨さんの傍にいたくて仕方がないんです!」
「………………」
「それに、優梨さんは亡くなった母に何処と無く似ているし、正直、あなたが入る隙はないと思います!」
その時だ。
夕君、0歳が泣き出した。
「まあ、夕君どうしたの? オムツかしら? おなか減ったの?」
「……帰って下さい……」
「えっ?」
「もう帰ってっ! 私がしますっ!」
「蓮歌さん……」
「あなたの気持ちはありがたいですけど、きつい事を言うようですが、あなたにはベビーシッターなんて出来る訳ないです! 優梨さんの代理なんていらない! そういう理由なら2度と来ないで!」
「………………」
「夕、ちょっと待ってね」
そして ―――
「小田切さん? 小田切さんっ! 小田切さん待って!」
「希沙良さん……」
「もうお手上げですか? 自分がするって言って中途半端で帰るなんて酷くないですか?」
「ふんっ!」
小田切さんは帰って行くのだった。
「帰んなっつーの!」
私は鉄柵をのぼり始めた、その時。
「おいっ!」
ビクッ
背後から声がし驚く私。
「きゃああっ!」
ガクッ ズルッ ドサッ
バランスを崩し足を踏み外し地面に落ちる。
「ったぁーー」
「……てめぇは何してんだよ!」
「えっ? わわ……ゆ、侑木君っ!」
私の下に私を庇う様に侑木君が下敷き状態。
「ご、ごめんっ!」
「降りろっ! 襲うぞ!」
ドキッ
胸が大きく跳ねた。
「お、襲うとか犯罪だし! つーか色気ないから、ヤる前にやる気失せるからっ!」
私は降りる。
グイッと鉄柵に押し付ける。
ドキッ
再び胸が大きく跳ねた。
「不法侵入、現行犯逮捕!」
「……げ、現行犯逮捕って……まだ未遂だから! 」
「変わんねーだろっ!」
「まあ……つーか……侑木君、家にいなかったんだね」
「いるわけねぇだろう? どうしてあの女(お嬢様)
と一緒にいなきゃなんねーんだよ! お前がいなきゃ意味ねぇし」
「えっ?」
「誤解すんな。からかい甲斐のあるお前いねーとつまんねーだけだから」
「酷くない?」
クスクス笑う侑木君。
「ほらっ! 入れよ!」
「あ、うん」
私は屋敷に侑木君と入る。
「優梨お姉ちゃんが来たぞーっ!」
バタバタ……
駆け寄るみんな。
「お姉ちゃーーん!」
「わっ!」
弘太君が一番に抱き付き、後に続いてみんなが抱き付いた。
「お前の事、本当好きなんだな」
「嬉しい事だよ。侑木君も抱きつく?」
バシッ
私の頭を叩く。
「いったぁ! 」
「誰が抱きつくかっ! お前が俺に抱きつくの間違いなんじゃねーの?」
「えっ!?」
「その時は優しくしてやるよ。希・沙・良」
ドキッ
私の顔をのぞきこむようにする侑木君の行動に私の胸が大きく跳ねる。
「な、何言って……」
「お前、今、Hな事考えたろ?」
「か、考えてないしっ!」
「へぇー……あっ! 後……」
「な、何?」
「忠告しとくけど襲うのに色気あるとかないとか関係ねぇから」
「えっ? 関係……ない?」
クイッと顎を掴む侑木君。
ドキッ
不意にする侑木君の行動に胸が大きく跳ねた。
「そう! 女を “モノ” としか扱わねぇ奴程、全然関係ないって事」
そう言うと掴んだ顎から手を離すと侑木君は自分の頭を指差す。
「そこんとこ、頭入れていた方が良いんじゃね?」
「えっ!?」
そして両肩をポンと叩く。
ドキン
胸が高鳴る。
「じゃあ、ヨロシク~♪ ベビーシッターの希沙良 優梨さん」
「お姉ちゃん早く行こうよー」
「うん、そうだね。行こうか。ごめんね」
私は子供達に引っ張られながら移動した。
「お兄ちゃん、優梨さんと一緒だったの?」
「いや」
「偶々、不法侵入していた希沙良を現行犯逮捕してきて連れて来た」
「えっ?」
「アイツ鉄柵のぼって中に入ろうとしてたし」
「クスクス……そうなんだ。心配だったんだね」
「まあ、気にしてたんだろう? アイツ子供好きだし、みんなアイツが好きだからな」
「お兄ちゃんもね」
「俺!? いやいや、俺は違うし!」
「そう? だけど本当優梨さんってなつかれてるよね?」
「そういう人種だろう?」
「人種って……」
「お母さん見てるみたいだね」
「母親ね……」
「どれだけ悪い事しても怒るんじゃなくて優しく注意するところ」
「ああ。そうだったけな?」
「ねえ、お兄ちゃんの中で、優梨さんの存在ってどんな存在なの?」
「存在? 別にただの友達」
「そう?」
「そう! ……だけど……違う意味で気になるかな?」
「へぇー」
「何だよ!」
「別にー」
その日の夜、帰ろうとした時。
ガチャ
玄関のドアが開く。
「あれ?優梨ちゃん今から帰るの?」
「はい」
「もう遅いし送ろうか?」
「いいえ、大丈夫です」
「希沙良、送ってもらえよ。夜道は危険過ぎる。一応・女・の・子・だからな」
と、声がし振り返ると侑木の姿。
「一応って……れっきとした女の子です!」
「そうだな。それにみんなが心配するから」
私は、隆寛さんに送ってもらうことにした。
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