第8話 イジメ~心を強く~

それから一ヶ月が過ぎ ―――9月



「お前ん家、どんだけ子供いるんだよー」

「スケベの父ちゃんだー」

「母親はいないだってー?」

「やーい、スケベの父ちゃんの息子ー」



小学生のイジメを見掛ける私。



「…あれ? …あの子……確か…」



押され地面に転ぶ男の子。



「おいっ! 何か言えよー」

「口訊けねーのかよー」


「………………」


「やーい! 弱虫ー」

「弱虫ー」



「こらーっ!」



私は怒鳴りながら駆け寄る。



「うわー」

「ヤベー」



逃げる子供達。



「全く! 大丈夫? 兼(けん)君」


「………………」


「ねえ、兼君、いつもあんな風に意地悪されてるの?」



私は、兼君の目線になるまで腰をおろす。



「………………」


「兼君? お姉ちゃん聞いてるから何か言ってほしいなぁ~。答えてくれなきゃお姉ちゃん分からないよ」


「………………」


「はい、もう一回聞くよ。お姉ちゃんは怒ってる訳じゃないからね。ただ、お姉ちゃんは知りたいだけなんだよ。だからお姉ちゃんに教えて欲しいなぁ~。あの子達に、いつもあんな風に意地悪されてるの?」



こくりと頷く兼君。9歳の男の子だ。



「そうかぁ~……あんな事言われて悔しくない?」



「………………」


「あっ…えっと…嫌じゃない?」

「……だって…本当の事だもん……」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、弟とか妹が多いの嫌? みんな兼君の家族だよ。楽しくない? お父さん嫌い?」


「………………」


「お姉ちゃんは大好きだよ」

「えっ?」


「お姉ちゃんには、お兄ちゃんもお姉ちゃんも妹も弟もいないから。みんなが私の事好きなように私もみんなが好き。だから意地悪されてるのは嫌だから、お姉ちゃんはみんなを守る為に強くなっちゃうんだ」


「強く?」


「うん。だって強くなきゃ弱虫さんだと好きな子守れないから」


「好きな子……?」



≪あれ? この反応は……もしや……≫



「うん。好きな子から弱虫とか嫌いって言われたら、お姉ちゃん嫌だもん」


「………………」


「……やだ…僕もやだ!」


「じゃあ意地悪されたら、やり返そうって思わなきゃ」


「…でも…僕……弱いから…」



「じゃあ強くなろう! だけど喧嘩して良い事じゃないし、だからって喧嘩するなとは言わないけど、でも時には喧嘩する事も必要なんだよ」



「………………」



「大好きな子を、守る為には強くなきゃ。だけど、ただ強いだけじゃ駄目なんだよ」


「えっ?」



スッ

私は、兼君の胸を指差す。



「心が強くなきゃ負けちゃうよ!」


「心?」


「そう! 心!」


「どれだけ意地悪されても、挫けない事! 喧嘩弱くたって嫌なものは嫌って、ハッキリと言わなきゃ兼君は、ずーっと弱虫のままだよ」


「僕、どうしたら強くなる?」

「兼君…」

「僕強くなりたいっ! そして、あやちゃんを守るっ!」



≪あやちゃんって言う子なんだね≫




「そうかぁ~じゃあ強くなろう! 嫌なものは嫌って言える人間になろう! 兼君は、男の子なんだから。ねっ! そして、好きな子守ろう!」


「うんっ!」




その日の夜。



「お兄ちゃん」

「ん? どうした? 兼」

「僕、強くなりたいっ!」

「えっ?」

「強くなって好きな子守るっ!」


「えっ? 急にどうしたんだ?」

「…僕…イジメられてるんだ……」

「えっ!? 誰に?」

「クラスの男の子達に」

「クラスの男の子達みんなからか?」


「ううん。3人の子達に…登下校が一緒の子達にで……僕、どうしたら強くなれる?」


「兼、強くなるって言っても簡単に出来るものじゃないから」


「うん」


「喧嘩強いからって自慢出来るものじゃない」


「うん……僕…心を強くしたいっ!」


「えっ!? 心?」

「うん。お姉ちゃんが、そう言ってた」

「お姉ちゃん?」

「優梨お姉ちゃん」

「優梨お姉ちゃんが?」


「うん。喧嘩弱くても嫌なものは嫌ってハッキリと言えるようになろうって…僕…言えるかな? 好きな子守れるようになる?」



≪アイツ…≫



「ああ、守れる。でも、俺に頼るんじゃない! 自分で強くなろうって努力する事。自分が頑張らなきゃならないから」


「難しい?」


「兼次第かな? そのイジメられている友達に言い返す事! 嫌だ! 辞めてくれって」


「うん」


「どんな理由でイジメられているんだ?」

「僕の…お父さん…」

「えっ!?」

「スケベの父ちゃんって……兄弟が多いから」



≪よりによって親父の事かよ≫



「そうか…兼、お父さんは好きか?」

「うんっ! 怒ると怖いけど優しいし好き」

「じゃあ、お兄ちゃん、お姉ちゃん、弟や妹は好きか?」

「うんっ!好き!」


「じゃあ、そのまま言えば良い」

「えっ?」


「自分の思った事を相手に伝えれば良い。それでもイジメられたら何度も何度も言い返してやり返してやれ。向き合って戦う事。それが1つの強さだら」





そして ――――



「スケベの父ちゃんの子供だー」

「わー、スケベが移るー」

「うるさいっ!」

「何だよ! お前やるのか?」



ドン

兼君を押し飛ばす相手の男の子。



ドサッ

地面に転ぶ兼君



「ってー」

「コケた、コケた!弱ーー」



立ちあがり押し飛ばす兼君の姿。




「いってー! 何すんだよ!」

「僕を押したじゃないかっ!」

「コイツーー」




その日の夜。




「あきら君、ここの家の子?」

「……うん……」

「何て大きい家なのかしら? もしかして……お金持ち?」



インターホンを押す人影。




「はい」

「あの、お宅の子供 が家の子を……」

「すみません、お話しなら中で伺いますので中に入られて下さい」



鉄柵が自動で開く。



「まあっ!」




ガチャ

玄関が開く。



「あの……どういったご用件でしょうか? 家の子がどうとかって……」



対応したのは侑木君だ。



「せっかく来て頂いたのですが、あいにく親はいないのですが……」


「では、お伝え下さい。家の子が、こちらの子供にイジメられたと! どうやらお金持ちのようですし、教育がお悪いんじゃないかしら?」


「………………」


「甘やかし過ぎかと思いますけど……病院代頂きたい所ですわ!」


「それはすみません。そうでしたか……他には……何か?」


「いいえ! 今日の所は帰らせて頂きます。また後日、改めてお伺いします」


「分かりました。親には伝えておきます」

「お願いします」




そして、帰ろうとした。



ガチャガチャ


ドアノブを何度も回す。



「ちょ、ちょっと! このドア……」

「すみません、家オートロックなので」



鍵を開ける侑木君。


そして、親子は帰って行った。



「クソババア! テメーの子供が兼をイジメてたっつーの!」




そして休日の午後。


例の親子が訪れた。


私はベビーシッターで来ていた為、偶然に見掛ける。



「……あっ! あの子供(ガキ)兼君を……」

「あの……どちら様ですか?」



世帯主であり父親でもある隆寛さんが対応する。




「あの、以前こちらにお伺いしたのですが、親がいないとの事でしたので」

「あー、そうでしたか。すみません、それでご用件は? 詳しい事、お話しして頂いて宜しいですか? 」


「世帯主の方ですか?」

「ええ」

「お宅の子供さんが家の子供を怪我させたんです!」

「お怪我を? それは申し訳ない事を致しました」


「あの……お宅の教育がなっていないんじゃないんですか? 片親みたいですし、甘やかし過ぎなのでは?」


「親としてキチンと教育してきたのですが……」

「全く、あきら君のお顔や体に傷をつけられて……あきら君をイジメたという子供を」



「兼くーん、おいでー。お友達来てるよーーっ!」


「優梨さん」と、隆寛さん。



そして、男の子は私に気付いた様子だった。



「あきら……君」と、兼君。

「あきら、この子?」

「うん……」


「ちょっとあなた! この子の事イジメて怪我までさせて謝りもしないなんて!」

「えっ?……僕は……」

「兼君、ハッキリと言いなよ。心を強く!頑張って!」



私は私達にしか聞こえない距離で話をする。



「ぼ、僕は悪くないっ! だ、だってそっちから僕の事ずっとイジメてたんだ!」

「まあっ! 家の子が悪いなんて。家の子に限ってそんな事する訳ないわよね? ねえ、あきら」


「……うん……」


「でも、兼君は嘘をつきません!」

「まあっ! あきら言ってやりなさい!イジメられたのよね?」

「……イジメ……られた……」

「ほらっ! あきらが、こう言ってるの!謝ってくださればむ事済む事てす」



「………………」



私はあきら君の元に行き腰をおろす。



「………………」


「あきら君、兼君は、あきら君をイジメてたのかな?」


「………………」


「あなたのお母さんと私は本当の事を知らないんだよ。だから、お願い正直に話して」




私は、イジメていた瞬間を目の当たりにしていま為、あきら君には本当の事を話して欲しいと思った。


嘘はいけない事だって事は分かってるはずたから




「あなたも家の子がイジメたとでも?」

「私は正直に話して欲しいと思っているだけでです。あきら君……」

「……兼君が……イジメた……」


「………………」


「で、でもっ! 僕もイジメたから……」

「えっ!?」

「ごめんなさいっ! 僕羨ましくって……お金持ちだし、ゲームいっぱいあるんだろうなぁ~って……兄妹もいっぱいいて羨ましくって……」


「あきら……」

「あきら君……」


「だから……僕……あんな事して……ごめん……兼君……」

「あきら君……良いよ。僕もごめんね」



私はあきら君の頭を撫でた。



「あきら君、ありがとう。正直に話してくれて」

「ううん」

「兼君、おいで」



兼を呼ぶ私。



「兼君! 良く頑張ったね! えらいっ!」



頭を撫でた。




「うん」



私は二人の手を掴み握手をさせた。



「ねえ、兼君の所、どんなゲームがあるの?」

「ゲームいっぱいあるよ! おいで!」


二人は2階に上がって行き始める。




「あー、お姉ちゃんも一緒にしようかなぁ~」

「ええーっ!」


「あのっ! 出過ぎた真似をしてすみませんでした!」


私は頭を下げる。



「えっ? いいえ……」

「失礼します。兼君、あきら君待ってー」

「ヤダー」

「あー、ひどーい」



私達は二人を後を追った。



「家の子が……すみません」


「いいえ。子供って不器用ですから。色々な壁を乗り越えて成長していくんです。大人も子供もみんな一緒だと思います。あきら君は後で家に送りますので子供達を遊ばせてあげて下さい」


「すみません。お願いします」



帰って行くあきら君の母親だった。















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