第4話 初めてのベビーシッター

そんなある日の事 ―――


「ママ? 大丈夫? 風邪引いた?」

「うん……ちょっとね……熱があるみたいなのよ。体がだるくて」

「無理し過ぎたんじゃない? だから言ったじゃん!」

「そうねぇ~疲れが出たのかもしれないわね」


「今日、ベビーシッターは?」

「あるわよ」

「じゃあ私が代理で行く。と、いうより行かせて」

「えっ?」

「だって約束でしょう? それに子供達に風邪でも移したりしたら大変だよ。だからママはゆっくりしてなよ」


「だけど、あなた学校……」

「休む! 嘘ついて休む事は駄目な事だって分かってるけど……」

「分かったわ……じゃあ、お願い出来る?」



私は学校を欠席。

そして、ベビーシッターの場所に行く事にしたんだけど…………



「侑木?」

「ええ。侑木 隆寛さんて方が世帯主で父親になる方だから」

「分かった」



≪侑木……? まさかね……≫



私は同級生 = クラスメイトの彼が一瞬過るのだった。


そして、向かった先は ―――



「なっ…! えっ!? ええーーっ! 侑木…君って……やっぱり…ここ…ですか……」




私はインターホンを押す。




「はい」



男の人の声で返事がある。



「あ、あの……母親の代理でベビーシッターに来ました娘の希沙良 優梨です」

「あっ! はい! どうぞーー」



鉄柵が自動で開く。


私は中へと入って行く。



鉄柵が開くと、レンガで敷き詰められた地面。


高級感の雰囲気を思わせる洋風のガーデニングがある。


玄関先に辿り着き、再びインターホンを押す。



ガチャ

鍵が開き父親と思われる男の人が現れた。



≪若っ!≫



「わざわざすみません。いつもお母さんにはお世話になってます」

「いいえ、こちらこそ、いつもお世話になってます。今日は、母親が風邪を引いた為、代理で来ました」


「ありがとうございます。しかし君、若いね? いくつ?」

「えっ?…あっ、えっと……16です」

「16っ!? 現役高校生だよね? 学校は?」

「休みました」


「えっ!?」

「すみません。学校休んで迄……学校を休む事は悪い事だって分かってます」


「そうか。代理の事は聞いていたし正直助かるよ。お母さんは大丈夫?」

「はい。大丈夫です。多分、疲れが出たんだと思います」


「パート働きもされてるみたいだからね。取り合えず今日1日、宜しくお願いします」

「はい。こちらこそ宜しくお願いします」



「しかし、16となれば家の息子と同級生じゃないか?」



ギクッ



「あー、そうなんですね」



≪息子さんならクラスメイトにいますよ。なんて事は流石に、それは言えない≫



私は子供達の面倒をみていた。




夕方 ―――




「ただいま」

「あっ! お兄ちゃーん」



子供達は同級生の侑木君の所に駆け寄る。

私は気付く事なく一番下の赤ちゃん・夕君にミルクをあげていた。



「おー、弘太ー、ただいまー。良い子にしてたか?」

「うんっ! 今日ね、お姉ちゃんが沢山遊んでくれたんだよー」

「お姉ちゃん?」

「うんっ! 今、夕君にミルクあげてるー」



そして、部屋を訪れる。



ガチャ

部屋のドアが開く。



「優梨お姉ちゃん!」

「あっ! 弘太君、もう少し待っててね!」

「へぇー……何が、もう少し待っててね! だよっ! 」



「えっ?」

「学校サボって、テメーは何してんだよ!」




振り返るとそこには ―――



「げっ! 侑木 劉真っ! いや……えっと……母親が風邪引いて代理でここに来て……子供達に風邪移ったら大変でしょう?」


「へぇー……学校休んで迄、良い度胸してんのなぁー。希沙良 優梨さーん」

「し、仕方ないでしょう!?」

「仕方なくねーな! 休む理由分かんねー!」

「良いでしょう!? ボランティアよ! ボランティア!」

「ボランティアだ?」



「夫婦喧嘩してるー!」

「ふ、夫婦喧嘩ぁっ!? いやいや、これは違うから!」

「希沙良ーー、いつから俺の奥さんになったんだ?」


「なっ! ち、違っ! ていうか夫婦って、そういう侑木君は私の夫になってるんだよ。弟達に説明してよ!」


「ベビーシッターのお前が分かりやすく説明してやれば?」

「私が!? いやいや、そこはお兄ちゃんのあんたでしょう?」

「ベビーシッターのお前だろう? それとも一層の事結婚するか?」



イタズラっぽく笑う侑木君の姿。



「あのねー、私だって選ぶ権利あるんだけど!」

「俺だって選ぶ権利あるし!」



子供達に茶化され、侑木君にも意地悪され、私のベビーシッターの1日が終わった。





今まで彼と話す事がなかった私は


彼の存在が


今後


影響するなんて知るよしもなく ―――



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