第6話

 4月も終わり、5月に差し掛かった。春のうららかな、心地の良い陽気はどこへやら、燦々とした日差し、少し鬱陶しく感じる暑さが夏の足音を想起させる。そのうち、蝉時雨がざわざわと、そこかしこからこだますることだろう。遥はそう思いながら、単語帳を読みつつ学校へ歩を進めていた。





















 坂を登り階段を上がり、ようやく教室にたどり着いた遥。リュックを背負ったその背中はだいぶ汗ばんでいた。1限の授業の準備をしていると、目の前にメガネ男子が。


 「数学の宿題終わってるなりか?さっさとノートをよこすなり!」

 「あれぐらいやってこいよ、佐貫…問題集にも類題が載ってたぞ…」

 「いや、昨日はちょっと積みゲー消費とかアニメ見るとか色々あったんで(キッパリ」

 「えぇ…」

 佐貫は平常運転だった。それからしばらく、アニメの話やら何やらを話していると、爽やかな雰囲気の男子がこちらへ近づいてきた。


 「面白そうな話をしてるね。ドラマかい?」

 「アニメなりな。ところで実写化は滅ぼさねばならない。」

 「そのへんの論争は長くなるからやめとこうぜ、な?」

 「いや、○魂は成功と言えるかもしれないけどジョジ○とかニ○コイとかかぐ○様とか、微妙なやつが量産されてる現実は我々としては見過ごせないなり!」

 「うん、共感できるけども、彼も困惑しちゃうk…」

 「まあ確かに二次元キャラを三次元で表現すると微妙な出来になるのは随分前から言われてたからね、ファンにとっては物議を醸すことはしょっちゅうだけどこれをきっかけに原作にはまる人もいるわけだから蔑ろにするのもどうかと思うけどね。」

 「それにしてもストーリーが原作より面白くないことも多いなり!そこは原作に忠実であってほしいってところが疎かにされてることも少なくないなり!」

 「それはそれでいいじゃないか!それぞれの意匠のようなものが反映されていて。作品の味をきちんと残しつつ、オリジナリティを出そうとしている部分を評価すべ…」

 「いや落ち着け、もう授業始まるし…」

――キーンコーンカーンコーン…

 始業を知らせるチャイムとともに数学の先生が入ってきた。


 「あ、宿題やり忘れた…」

 「…佐貫、自業自得ってやつだ。諦めろ。」












 数学の先生が佐貫に怒り、英語の先生(金山先生)が佐貫に怒り―きちんとすべての授業で先生に怒られた佐貫は、6限が終わった頃には疲労困憊といった様子だった。


 「は〜、テストで点取ってるんだから少しぐらい見逃してくれてもいいと思うなり。」

 「向こうもそういうわけにはいかんだろう、平常点付かなくなるぞ。」

 「まあそんなことは忘れて部活行くなり。」

 「駄目だこりゃ(ドリフ風」


 いつもの部室棟へ行き、鉄研の部室へ。ガラッと引き戸を開けて中へ入ると見慣れない人たちが。


 「―ということで、これが部活対抗リレーの参加希望用紙ですので。期日までには提出をお願いしますね。」

 「ええ、了解したわ。走順とかはどうすればいいかしら?」

 「後日の部活代表者の皆さんに集まってもらって各部活の部員の走順を教えていただきたいのでその時までに決めておいてください。どの部活から走るかもそのときにお伝えしますので。」

 「わかったわ。ありがとう。」

 「はい、それでは。」

 何やら事務的なやり取りが先輩と女子生徒の間で行われていたようだ。部活対抗とかなんとかって言ってたけど何のことだろう?


 「先輩、こんにちは。」

 「あら横瀬くん、と佐貫ね。こんにちは。」

 「ついでみたいな扱いに納得いかないのは自分だけなりか?」

 挨拶もそこそこに、先輩の話していたことを聞いてみる。


 「ところで今の人は誰だったんです?」

 「ああ、体育祭の実行委員の人ね。この部活も試合とか大会が頻繁に行われるわけじゃないから、アピールする場所も少ないのよ。それで部活動対抗リレーに参加して、知名度を上げようという作戦ね。」

 「そういうことだったんですね。」

 「今日は体育祭のことも決めつつ、夏休み中の旅行の行程とか立てたいわね。」


 やることが一通り決まり、他の部員も集まったので部活を始めることに。直近のイベントである体育祭の部活対抗リレーについて話すことにした。


 「とりあえず新入部員の運動神経について伺おうと思うのだけど、その前に紹介すべき人がいるわ。」

 「どうも、横瀬君と佐貫君と同じクラスの鴻巣祐徳(こうのすゆうと)です。よろしくお願いします。」

 「「あ、今朝話したやつ」」

 「あ、横瀬君たちはこの部活に入ってたんだね。君らと話すのが楽しかったからさ、この部活に入りたくてね。あの後、即入部届を出しに行ったよ。」

 嬉しいことを言ってくれるじゃないか…この高校に入ってから話す相手が専ら部員のみだったので、友達が増えるのは遥としては喜ばしいところだったりする。


 「じゃあ早速部活対抗リレーについて色々決めていきましょう。」


 体育祭まであと2週間。炎天下のもと行われるこの行事で、どこまでこの部活が目立てるのか、遥は密かに期待を寄せていた。

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