第5話

 先輩たちのお願いもあり、小諸駅で下車。この駅はしなの鉄道の他に小海線も乗り入れており、HIGHRAIL 1375という快速が当駅と小淵沢駅を走っている。1375とは途中駅の野辺山駅周辺の標高。実はJR東日本の路線では1番標高の高いところを走る路線がこの小海線なのだ。そのため野辺山駅周辺には標高1370m、JR東日本管内で1番標高の高い場所を示す碑が立っている。そんな小諸駅で一行はSR-1系を撮ったり、キハ110系を撮ったりしていた。

 

 「30分も駅でこうしてるってにわか鉄にはキツいものがありますよ…」

 「喉元すぎれば暑さ忘れるっていうじゃない。」

 「一難去ってまた一難ともいいますよ。」

 「まあいいじゃない、私たちがいれば退屈しのぎぐらいにはなるでしょ?」

 退屈しのぎなんてそんな失礼な考えはしたことはないが、確かに退屈はしていない。あのまま横川で廃線を見に行くとかしたかったが、これはこれで良かったのかもしれない。そうこうしているうちにしなの鉄道の電車がホームに入線してきた。今度は普通列車でしな鉄の顔とも言える車両、115系電車だっ

た。


 「スカ色や!Nゲージでしか見たことねえ!」

 「ちなみにスカ色とは横須賀線の車両によく見られる塗装で、湘南色、キムワ○プこと長野色と並んで人気の高い塗装なのよ。」

 「キ○ワイプってあの理系御用達の?」

 「ええ、あまりにもカラーリングが似すぎて一時期本当にコラ画像でラッピング広告が作られてたわ。」

 「へ〜、遭遇したいなあ…」

 ○ムワイプが気になってたまらない様子の遥。ちなみに遥はキム○オル派らしい。一行は到着した普通列車で上田へ向かう。ふと、遥は駅で見たあるものについて先輩に聞いてみた。


 「雫石先輩、あ○夏ってアニメ知ってます?」

 「もちろん、自分は貴○先輩が好きだったのだ。」

 「どんな話なんです?」

 「小諸駅にもポスターみたいなので宣伝してたと思うけど、小諸、上田、佐久平周辺が聖地のアニメなのだ。8年前のアニメだけど中々作画も良くてストーリーも良くて、私はすごく好きだったのだ…祖父の遺品のカメラで映画を撮ろうとする主人公と、宇宙人設定の先輩と愉快な仲間たちで映画を作り上げるっていう感じのあらすじだったと思うのだ。ぜひ見るといいのだ。」

 「アニメも詳しいんですね。先輩。」

 「嗜む程度なのだ。基本良作と太鼓判が押されてる名作しか履修してないのだ。」

 「先輩がそこまで推すなら見てみます。」

 新たな沼に引きずり込まれてるとも知らず、遥はツ○ヤで借りて帰ることにした。


 「というか2000年代から2010年代前半はさいきょーに面白いアニメが集中してるのだ。○の夏が放映された2012年冬アニメなんて妖狐×○SSとかパパ○き、エリアの騎○にanothe○、戦姫絶唱シ○フォギア、キルミーベ○ベーとか神アニメ揃いなのだ!」

 「○まみれで何がなんだかですよ…」

 遥は呆れつつも○タヤで借りることを決意した。他愛のない話で盛り上がっていると、もう上田に着いたようだ。


 ♪〜


 東海道新幹線のドアチャイムとともに、国鉄車両特有の重々しい鉄扉が開く。上田駅といえば、大河ドラマ「真田丸」で一躍有名となった上田城が駅から少し行った先に聳えている。春になると、桜花の色に乱世を生き抜いた荘厳な立ち姿の櫓が映えて非常に美しい姿を見せるそうだ。今回は時間の関係上、行けないので上田電鉄の車両を見て、新幹線のホームへ上がることにした。


 「元東急1000系ということですけど、どこにでもいますね、東急車両は。」

 「譲渡輸送も頻繁に行われているなりな。直近で有名になったのだと、ゆうマニが長津田の車両区に来たり、7700系が養老電鉄に譲渡されてついに未曾有の車齢60年とかいう長寿車両になったりと東急は他の鉄道会社とは何かが根本的に違うなり…」

 「そうかな、私は悪くないと思うで」

 「さいで」

 雫石先輩は東急がお好きらしい。一通り撮り終えたところで新幹線ホームに向かうことにした。帰りは各々の財布事情を斟酌して自由席で帰ることにした。いやーしかし速い速い。もう軽井沢周辺。ウン十分もかけて来たのが馬鹿みたいなスピードで軽井沢、そして高崎の方へ駆けていく。皆は旅の疲れからか夢の世界へ誘われてしまった。高崎まで乗るのですぐ降りるが、疲れたので寝ることにした―










 ♪〜


 『まもなく、高崎に到着いたします。高崎線、上越線、信越線、両毛線、吾妻線、八高線、上信電鉄上信線はお乗り換えです。高崎の次は、大宮に止まります。』


 高崎到着を告げるアナウンスとともに僕らは目覚めた。ここから青春18きっぷのもとを取るために新宿まで高崎線で移動する。湘南新宿ライン普通小田原行で新宿へ。普通とはいえ、駅間がだいぶある高崎線内は意外と速い。快速でも楽しそうだが、普通列車だからこそ味わえる速度感がたまらない。車窓に見入っていると気づけばもう赤羽。旅の終わりはすぐそこまで迫っている。遥の初めての鉄道旅は非常に楽しいものとなった。


 


 新宿駅に到着。僕以外の皆は京王線で橋本の方に向かう。時間的に京王ライナーが使えるだろう。だが、僕はホームウェイを使うと言って皆と別れた。


 部員らと別れた後、遥は小田急西口地上改札へ急ぐ。頭上の電光掲示板を見ると、もう先のロマンスカーまで満席の表示になっている。しかし、遥は集合前に予めホームウェイの特急券を買っていた。何だかんだ寄り道していたが、当初予定していた通りの時間に帰れたので余裕をもって乗車することができる。


 ♪〜


 ミュージックホーンとともにバーミリオンオレンジのきれいな車体の列車が入線してくる。GSEだ。なんと運良く遥はこの列車の前面展望を予約することができたのだ。車内清掃が終わり、早速乗車。先頭の展望席と普通席の区切りは、この先が特等席であることを誇示しているかのような、一線を画す何かを感じさせる。1号車1番B席と一番展望しやすい席を手にし、ホクホク気分の遥は約20分少々の特別な体験をし、家路に就く。夜のロマンスカーは昼間のロマンスカーとは違い、少しだけ速度を出す。後ろに流れていく夜の都会の風景は、高崎線で見た車窓とはまた違った味があり、見ていて飽きない。さっきまで代々木上原だったかと思えばもう和泉多摩川。新百合ヶ丘まであと数駅。遥は情緒ある夜の車窓に魅了されていた。


 ロマンスカーで新百合ヶ丘に着き、無事帰宅した遥は旅の余韻に浸っていた。あと数週間にまで迫った体育祭。これに向けた部活動としての準備がある。遥は初めての行事にワクワクしつつ、組に貢献できるか不安になっていた。――しかし、その行事で鉄研が意外な活躍ぶりを見せることを、このときの遥は知る由もなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る